KUROMIMIには本が足りない。

KUROMIMIには本が足りない。

活字がないとダメ系ヲタク。小説・音楽・詩・ときどき映画。自作の小説も書いてます。

優れた文章は読者を受動的にしてしまう。

先日、私は遅読派だという話をしたと思う。

 

 

kuromimi.hatenablog.com

 

 

しかし、実際の私はゆっくり読むこともあれば早く読むこともある。

 

なぜこのような食い違いが起こるのか。

それは私の読書が一段上の段階に上がったからではないか、と内心ほくそ笑んでいます。←驕り高ぶりすぎてね?

 

 

読書とは能動的な行為だと一般では言われているように思います。

 

なぜなら、映画やテレビ、演劇、音楽などと違い自らの力で読み進めるから。

 

しかし、私はさまざまな本を読む中であることに気がつきました。

 

それは、

 

真に優れた文章は読者を受動的にしてしまう。

 

ということ。

 

本当に巧みな文章はその魔力でもって私たちに自らを「読ませる」

そうなると我々はもはや作者の掌の上。言葉のリズムの気持ちよさに乗せられて、あれよあれよという間に結末へと押し流されていってしまいます。

この事実に気がついてから、意図的に読むスピードを抑えるようにしていました。だってもっと読み味わいたいじゃないか。

 

これが結構大変なことだった。

作家の生み出す文章の魔力に対抗して速度を操ることは私にとって並大抵のことではありませんでした。でも続けるしかありませんでした。

 

たとえ憧れの作家であろうと、他人の掌の上で弄ばれるなどもってのほかだからです。

 

 

だから、その結果として遅読になっていたという言い方もできるのです。

 

 

 

しかし、最近ふとした瞬間に私は「意図して」速読していた自分に気がつきました。

 

そう。いつのまにか自分で読む速度を自在に操ることができるようになっていたのです。

 

私は読書における新たなギアを獲得したと言えます。

 

 

そんなこんなで読書の能動化によってまた一歩理想の読書に近づいたクロミミなのでした。

 

 

kuromimi.hatenablog.com

kuromimi.hatenablog.com

kuromimi.hatenablog.com

 

 

読書を何倍も楽しむ、遅読のススメ。

   本を読むのが好きな人ってどんな人を想像しますか?山ほどの本をあっという間に読んでしまう人のことをいう、と多くの人は思うのではないでしょうか。

 

わたしは遅読派です。でも本を読むことを愛しています。

 

 

今回はそんなわたしの読書の楽しみ方について語りたいと思います。

 

 

わたしは元々は速読派でした。特に小・中学生の頃は。1日に何冊も本を読んでしまうくらいずっと本を読んでいた。そして、何度も何度も同じ本を読んでまた次の本へ。なんども読むことできっと自分の中に内容を刷り込んでいたのだと思います。

 

だからなのか、自分でも驚くほど本の内容だけははっきりと覚えている。

今でも漫画はこの読み方をしています。なぜなら一冊10分程度で読めるから。これなら何回も読んでもたくさんの漫画を読むことができる。

 

しかし、小説はそうもいかない。高校生くらいになるとちょっと難しいものにも手を出し始めたからです。レイ・ブラッドベリ村上春樹ハインライン安部公房坂口安吾、とかね。

 

そして、難しいものは当然読むのに時間がかかるので、なんども読むことがなくなったのでした。(だって読みたい本は他にいくらでもあるわけですから)

 

しかし、そうすると本の内容は文章の群れとしてわたしの中を通り過ぎていくだけ。後に残るのは

「ああ面白かった」

という感慨だけ。

 

わたしは寂しくなりました。どうにか読書体験で得た感動や感覚をそのまま保存する方法はないものか…と考えた結果、わたしは高校三年の頃に遅読をすることにしたのです。

 

遅読するといろいろなことがわかりました。

この小説のどこに自分が惹かれているのか、作者はなぜここでこんな展開を持ってきたのか、わたしはこの小説にどう向き合ったのか。

 

とにかく、いろいろなことを考える余裕のようなものが生まれた。

 

何よりわたしには遅読があっていたようです。ほんとうに読書が楽しくなりました。でも、まだわたしは寂しかった。

 

だって記憶の劣化は防げない。

 

そこで、遅読すると同時にあることを始めました。

読んでいる本の気に入った一部を書き写し始めたのです。

 

f:id:KUROMIMI:20191224190851j:image

 

f:id:KUROMIMI:20191224190940j:image

 

二つの写真は上からウィリアム・アイリッシュの「幻の女」二つ目はゆらゆら帝国の「つぎの夜へ」の歌詞。

最初は小説だけだったのが、最終的には自分が刺激を受けた言葉は歌詞にしろ、小説にしろ詩にしろ対談にしろ、学術書にしろ全て書き留めるようになりました。

 

私の男、ディスコ探偵水曜日九十九十九ファウスト、生きるとは、自分の物語をつくること、薬指の標本、世界の終わりとハードボイルドワンダーランド、悪霊、カラマーゾフの兄弟、青猫、死の本、夜にはずっと深い夜を

 

なんかを書きとめた覚えがあります。もっといろいろあるけれど。時にはみた夢を記録した夢日記の独特の文体に惹かれることもありました。(クロミミは大学で睡眠についての講義を一時期受けていました。)

 

とにかく、ノートに書き留めたものを読むだけでその本を読んだ感動がまざまざと思い出され、幸せな気分に。そりゃあそうですよね。自分の大好きな文章しかないんだから。楽しくって仕方なかった。

実は以前オススメの日本文学・海外文学の投稿を描いた時に引用した本文は全てこのメモ書きの部分。今読んでも大好きです。やっぱり。

 

とにかく、この作業を加えることによってわたしは大好きな本の文体・雰囲気などを克明に記憶できるようになった。ついに理想の読書にたどり着いたというわけです。

 

この方法のいいところは小説の楽しみ方の幅が広がること。

わたしは書き留める前に

黙読→音読→音読しながら書く

をしています。

ただ本文を書き写しているだけのはずなのに、わたしにとってこの作業はとても疲れるものです。

なぜなら情報量が増えるから。

書きながら、どこが自分に響いたか考える。考えてここだという部分を太いペンで書く。すると、この作業は作家の文体を知るだけでなく、自分の好みを知る作業にもなっているのです。

これは間違いなく小説を書く時に自分の文体を作り出すのに役立ったと思っています。

 

そしてさらにこの習慣が思わぬ効果を生んだ。実はメモを書き溜めていたのは小説のネタ帳。現在11冊目。

 

このノートを開いてネタを練りながら、この小説の文体は中村文則×フィリップ・K・ディックみたいにしよう。と思ったら、

 

すぐにページを遡ってみにいけばいい。そして元に戻ってまたかきはじめる。

断然創作におけるインプットとアウトプットがスムーズになったのです。

 

この習慣を始めてもう四年以上が経っていますが、これからも続けるつもりです。だって楽しいから。

 

 

皆様はどんな風に読書をしているでしょう。どんな風に小説を書いているのでしょう。よかったらコメントで教えてください。

 

 

 

それでは今回もありがとうございました。

 

 

 

kuromimi.hatenablog.com

kuromimi.hatenablog.com

kuromimi.hatenablog.com

 

 

 

 

 

 

 

 

小説・海のなか(1)

f:id:KUROMIMI:20200216221549j:image

 

登場人物名にミスを発見したため、再投稿させていただきます。

 

 

第零話   プロローグ

 

 

 

あれからもう随分と永いあいだここにいるような気がしている。

いまが一体いつなのか、もうわからない。

それほど時間が経ったのだ。あの時から。すべてを曖昧にさせるほどの永い、永い時が。

わからないことだらけだ。

私は誰なのか。

私の名前はなにか。

私を知っている人はいるのか。

そして、私は生きているのか。

ここに来る前に私は多くのものを失ったように思う。失ったものについて考えるたび奇妙で空虚な喪失感がどこかで渦を巻く。でも、それだけだ。この胸には悲しみも喜びも苦しさも、何もない。

ただ確かなことはひとりの少年がこの場にいたということだけだ。

わたしはもう彼の表情を思い出すことができない。

ただ、これだけはわかる。

彼は私を残して消えてしまったのだ。

ここには誰もいない。名も知らぬ何かが漂い、出口を求めてさまよっている。

もしも。…時折考えることがある。

 

もしも、誰かが来てくれたなら

そのこは私の終わりになってくれるだろうか。

次の私になってくれるだろうか。

いつかのわたしのように。

 


わたしはそのときをずっと待っている。時間の止まったこの場所で。

ずっとずっと待ち続けている。

 

***

 

第一章  海の中

 


『はやくきて、夕凪』

  高校二年の夏のある朝、不思議な声が感覚を撫でていった。

  瞬間、すべてを忘れた。これから海に行くことも、となりの友人の存在も、いま駅のホームに立っていることさえも。

   妖しく、美しい声だった。一度聞いたら忘れられない危うい響きが、まだ耳の奥ではリフレインしていた。

『まもなく、列車が参ります。危ないですから黄色い点字ブロックの内側まで下がってお待ちください』

  唐突に澄ました文句が現実感いっぱいに耳に飛び込んできた。駆け込んでくる電車の列に不思議な残響が連れ去られていく。あっと声が出るほどあっけなかった。

  なにかを忘れているような気がした。罪悪感がちくりとする。とても大切なことだったような気がしたのに。不意に隣を見ると愛花と沙也が陵を挟んで話していた。今日も何にもない普通の日なんだろう、と安心している自分がいる。

  「なあ、夕凪はどう思う?」

陵がくるっとこちらを振り向き尋ねた。自分の顔のこわばりを感じる。なんの話をしていたのか、全然分からなかった。そもそも会話に加わっているという意識すらなかったのだから、当然といえば当然だった。悪い予感がじわじわと這い上がってくる。今日だけはうまくやろうと決めたのに。

  慌ててわたしは口を開いた。

「陵、ごめ…」

  大きな音を立てて電車が滑り込む。わたしの小さな声は散り散りになってしまって、言った本人ですら、発声したかどうかもおぼつかない。そっと伏し目がちに様子を伺うと、誰もこちらを見てなどいなかった。どうやら答える必要は無くなったようだ。

  すっと視線を下げる。小さなひとつひとつに傷ついている自分に嫌気が差した。別にいじめられたわけでも意地悪されたわけでもない。ただわたしが重要でないだけ。いつも、どんな時でも。

 電車が起こした強い風に煽られて、麦わら帽子が飛んでいきそうになる。慌ててぎゅっとつばを下げるととたんに視野が狭くなった。

「夕凪」

名前を呼ばれて顔を上げると陵が心配そうな面持ちで見つめていた。

「電車出るよ、早く」

   泣いているように見えただろうか。そっと目元に触れてみる。しかし涙の気配もなく乾いていた。そうしてそうか、と密かに結論した。

きっと、すべてを諦めているから濡れないのだ。

わたしは薄く苦笑して電車のステップを踏んだ。

『ドアが閉まります。ご注意ください。』

間延びしたアナウンスが後を追って聞こえる。

 


***

 


列車内はがらんとしていた。日差しだけがさんさんとさして空白を強調しているみたいだ。なんだかさみしい。まるで言い訳しているみたいだ。適当な席に腰を降ろすと、愛花と紗也はまた陵を囲んで話しはじめた。今度は好きなバンドのハナシらしい。愛花が嬉々として熱弁している。わたしも今回はちゃんと話を聞いておこうと耳を傾けていたけれど、ふと気づく。そういえば、わたしはあんまり音楽を聴かない。この話題に入り込むのはむずかしい気がする。異国語のような三人の会話が少し遠くで聞こえた。いつもわたしはこうだ。みんなの時間とわたしの時間は速さが違う。一人だけ停滞している。そして、わたしを置き去りにしていることにすら、きっとみんな気がついていない。

 楽しそうな三人を横目にふと思う。そういえば、なぜ私はここにいるのだろう。陵だ。陵がわたしを誘った。いつもそういう気の使い方をするのは決まって陵だった。今日この場に来たことをわたしははやくも後悔し始めていた。ひどく自分を滑稽に感じる。誰もわたしを疎む素振りすら見せないことが、余計にわたしを辛くさせた。わたしを今この場につなぎ止めているのは陵の誘い。それだけだった。

『夕凪もいくだろ?』

   そう言って笑った陵の顔が過ぎる。口に苦いものが広がる。何度もぶり返すようなあの味。わたしはこの迷路からもう抜け出せないのかもしれない。麻痺してしまっているから。窓にだらしなく頭をもたせかけたまま、そんなことばかりを考え続けていた。

電車の中にもたまに視線を向けてみるけれど、誰とも目が合わない。お互いに目をそらし合って俯いている。みんなひとりぼっちみたいに見える。それを眺めている私もなんだか粘土でできた人形みたいににぶい。意識も宙に浮いたままひどく曖昧だった。窓から見える風景はあまりにも単調で眠くなった。電車の振動がゆりかごのようにわたしをあやす。電車がひとつ身体を揺するたびに、わたしの意識は曖昧になってくる。柔らかな繭に包まれて、わたしの瞼は少しずつ閉ざされる。

——ああ、みんな水着の話とかしてくれないかな。そうすればわたしだって話せるのに。

膝の上に置いた堅いビニールバックを抱きしめると、情けない音できゅうきゅう啼いた。いつの間にか、窓からは青い海が見えていた。澄んだ青は見つめていると、吸い込まれそうなほど深い色だ。波の表面は滑らかで美しい絹のように見えた。

「あっ海!」

「わあっ、きれい!」                       

愛花と紗也が席から立ち上がって窓に張り付く。はしゃいだ声が虚ろな車内に弾ける。照りつける日差しが白く目に突き刺さって、わたしは思わず目をほそめた。

        ***

 水着に着替えてみると、なんだか急に恥ずかしくなってきてしまった。おなかのあたりがすうすうして落ち着かない。

となりで堂々としている紗也と愛花がうらめしく思える。ほんとうに海に来るのはいつぶりだろう。少なくとも中学校に上がるよりも前のはずだ。急に、あの頃のわたしの形が遠くなって分からなくなってしまう。あのときのわたしと今のわたしは別物になってしまったのだろうか。知らず知らずのうちにそんなことを考えている自分に驚く。わたしは一体なにが欲しくてこんなことを考えたのだろう。今さら昔のことなんか考えたりして。いままで考えたこともなかったのに。なんだかしっくりこない。自分以外の誰かが『わたし』になりすましているみたいに。

「夕凪! 」

 気がつくと三人の背中は遠くにあった。愛花が頭上にバレーボールを掲げているのが小さくみえた。みんな笑っている。それだけで許された気がした。

「いまいく」 

   駆け寄っていくと既にバレーボールは始まっていた。宙を舞うボールにわたしはおびえてしまう。昔から運動が苦手だった。ましてやバレーボールなんて今までただの一度もボールをまともに上げられた例しがない。いつもわたしのボールは地面に落ちるか、あさっての方向に飛んでいく。足は地面に張り付いたみたいに動かないし、手は冷えて感覚が鈍い。楽しそうに遊ぶ三人のことが、まるで別の世界の人みたいに遠く感じられる。心がみるみる惨めな色で塗り込められていく。ああ、どうしようもない。

「夕凪」

  呼ばれて顔を上げると、ひときわ高いボールが白い太陽に呑みこまれながらわたしめがけて落ちてきていた。遮るように、空に手をかざす。けれどボールはそんなのお構いなしにすり抜けてわたしの額にぶつかり、海の方へと跳ねていった。

「っあ! 」

   痛みで涙が滲む。泣いていると思われるのは嫌だった。俯いて素早く踵を返すと、海に着水したボールを取りに走る。早くしないと、どんどん沖に流されてしまう。

「だいじょうぶー?」

みんなの声が背中に追いつく。振り払うように無理矢理明るい声で返事をした。

「平気、平気!」

もっと速く走らなきゃ。気がつかれないように。一目散に海に入るとツン、と潮の香りがする。顔についた水滴が容赦なく塩辛かった。喉が痛み始める。息がうまくできない。身体もいうことを聞かないみたいだ。

  いや、本当はちがう。ーーー私自身が拒絶しているのだ。あの場に戻ることを。その時、身体の芯が冷えていくのを感じた。なぜ、戻らなければいけないの。戻っても与えられるのは苦い蜜ばかりだ。その時、左足を強い力で誰かが摑んだ。

「えっ?」

「何か」から逃れようと足をばたつかせても、びくともしない。どんどん海の中に引きずり込んでいく。

「たすけて」

    息苦しい小さな声が漏れる。同時に視界がエメラルドグリーン一色に染まる。美しさにくらくらと目眩がした。息を吐き出すと大きくて緩慢な水泡が生まれて、胸がきりきりと苦しくなった。泡の行く末をぼんやりと目で追いながら、頭の片隅で思う。これで自由になれるのだろうか。いっそその方がいいのかもしれない。だって今何も、誰も浮かんでこない。誰にも会いたくない。何も欲しくない。あの世界にあるものは何も。

    だんだんと目の前が暗くなっていく。わたしはその瞬間全てをあきらめた。それきり意識は途絶えた。

 


***

 


   どこかからかやってきた潮の流れがわたしの頬を撫でた。曖昧な意識でも海中が穏やかなのが分かった。ああ、この場所はわたしを拒絶しない。すべてから逃れられる。自分のゆっくりとした呼吸を感じる。呼吸?わたしは海で溺れたはずなのに。疑問がわたしを少しずつ覚醒させた。身体の中心から徐々に感覚が広がっていく。誰かがわたしの髪を優しく梳いている。慈しむような手。不思議と怖いとは思わなかった。それどころか、手から与えられる感触にもっと身を委ねていたいとさえ思った。そう。わたしはどこかでこの感覚を知っている。小さい頃だ。それも、こんな場所でじゃない。もっと身近な。でもだめだ、思い出せない。

     手が優しければ優しいほど切なくなった。こんな安堵は地上に戻れば二度と手に入らないだろう。瞬間大きく心臓がはねた。胸をつく懐かしさがこみ上げる。いや、これは懐かしさなんて生易しいものじゃない。渇望だ。内から突き上げる感情に思わず目を見開き、身体を起こした。すると、すぐ近くから少年のような声がした。

「やっと起きた。気分はどう」

    声のする方を振り向くと、頭がひどく痛んだ。視界が歪み、ぶれる。わたしは呻くように訴えた。

「あたま・・・いたい」

「そうか。久しぶりだから身体が馴れていないのかもしれない。大丈夫。そのうち馴れる」

 見知らぬ少年はいいながら、そっとわたしの頭を撫でる。その手の感触には覚えがあった。少年はほんの少し髪に触れてすぐに手を離してしまう。まるで何かを恐れているようだ。壊れ物を扱うような恐れが僅かに触れた手から伝わってきた。ややあって、わたしは尋ねる。

「・・・髪を触っていたのはあなた?」

「ああ」

   少年は返事すると、何かもの言いたげな目をした。視線がぶつかる。その時初めてわたしは彼の姿を正面から見た。決して華やかではないが、目を惹く憂いを帯びた端整な顔立ちをしている。彼の白い肌が暗い海の中で浮き上がって見えた。まるで光を放っているようだ。少年の艶のある黒髪がより一層肌を白く見せている。こんな人間を今まで目にしたことがなかった。そしてその特異な印象は、単に優れた容姿のみに原因するわけではなさそうだということが一目で見てとれた。わたしは固唾を呑んで、目の前の人物を食い入るように見つめた。少年はわたしの視線に気がついているのかいないのか、微笑みかけた。

「夕凪、君はちゃんと生きてる。ただ、ここで息ができるように少し仕掛けはしたけれどね」

「・・・あなたは誰?」

 こんなに何かを知りたいと思ったのは初めてかもしれない、と心の中で思った。そうだ、こんな場所に人がいるはずがない。ただの人が。それに彼は人というには奇妙で、そして美しすぎた。急に怖くなった。この場所で息ができるようになったわたしもまた「ただの人間」ではないのか。指先が急に冷えてたまらなくなった。

「僕は青。ここにずっと棲んでいる。夕凪、安心するといい。君は人間だよ。どうしようもなくね」

 わたしの心を読んだような言葉に息が詰まった。見透かされている。

   青に「夕凪」と呼ばれるたび、どこか喜んでいる自分がいる。目覚める間際の感情が何の前触れもなく甦る。まるでずっと欲しかったものが今目の前にある、とでもいうように。わからない。わたしは知らなさすぎる。さまざまなことを。

「そういえば、わたしの名前・・・」

「ああ。君のことは昔から知っている。君が幼い頃から」

青はわたしと同い年くらいに見えるのに、その目はひどく大人びていてアンバランスだった。彼は慈しむように言った。

「・・・・・・大きくなったね、夕凪」

 また、ちりちりと理解できない感情が胸を焦がす。胸の上でぎゅっと片手を握り締めてわたしはいった。

「ここは、海の中なの?」

「そうだよ」

「帰らなきゃ」

 自分の言葉が空々しく耳に響く。本当にそうだろうか。あの時あんなにも簡単に全てを手放したのに。なぜ今になって。あの世界もわたしを必要としていないのに。出口の見えない問答がわたしを支配する。地上にわたしの心を繋ぎ止めるものはほとんどなかった。今会いたい人がいない。両親とは疎遠だし、心から友達と呼べる存在もいなかった。それなのに今、身体いっぱいの喪失感で息が苦しいほどだった。身体中で心臓の音を聞きながら、わたしは理解する。本当に全てを失ったのだと。あそこしかわたしの帰る場所はない。希薄な関係性とちっぽけな世界がわたしの全てだった。そして、今度はそれすら失ったのだ。

 「ふううっ」

 無様な声と一緒に涙が溢れる。けれど、すぐにもっと濃い塩水に紛れてわからなくなってしまう。わたしの悲しみを逃す手立てはなかった。海の中で泣くことはできない。だから、苦しみが癒える事もきっとない。わたしの方を一瞥すると、青はつぶやくような声で言った。

「…帰って欲しくないな。だってずっと待っていたんだからね」

「待っていた」という言葉にギクリとする。喜びと恐れのようなものがない交ぜになって押し寄せる。足を掴んで引きずりこまれた時の恐怖が何処かからか滲んできた。わたしを溺れさせたのはこの青という少年なのではないか。不意に疑惑が頭をもたげた。なぜこの可能性を一度も考えなかったのだろう。いや、考えたくなかったのだろうか。もう、恐怖と喜びの境目がわからない。

「君が初めてこの場所に足を踏み入れた瞬間から、僕は君を感じていた」

   青の声色は穏やかだった。しかし、その背後には押し込められた隠しきれない思いの気配が漂っていた。

「どのくらい?」

    別に、問いの答えが知りたいわけではなかった。未知の感触に腹の底が疼いた。本当は怖くて仕方がないのに、どうしようもなく引き寄せられる。青のガラス玉のような瞳にわたしが映り込んでいた。もう一度繰り返す。今度はゆっくりと噛みしめるように。

「どのくらい、まっていたの」

  その時初めて青の笑みが溶けて消えた。真顔になった彼の顔は作り物めいていて、まるで精緻な人形のようだった。彼の赤い唇が滑らかに動く。

「千年」

「千年まっていた」

「僕は千年の孤独に耐えて、君を待っていた」

   それきり青は何も言わなかった。青の存在は知らぬ間に消える泡のように儚かった。それなのになぜか彼の言葉はわたしの心からいつまでも消え去らず残り続けた。もしも、青が想像もつかないほど昔からここにいるなら。彼の時が止まってしまっても何もおかしくない気がした。子供が子供のまま永い時を生きてきたかのように、青の印象はちぐはぐだった。

 ああ、どんどん正常がわからなくなる。わたしはいま、自分で考えているのか。それとも、考えさせられているのか。

「嘘だよ」

唐突に青は言った。嘆くような微笑みを浮かべている。

「え」

「此処には朝も夜もないから。時間の流れがわからない」

  そして、青は切ない表情をした。唇は微笑みを浮かべていたが、目元には憂いと遠い昔への郷愁が影を落としていた。青の言葉をめちゃくちゃに否定したくなる。そんなわけがない。どうやらわたしは想像以上に、彼の言葉を信じたがっていた。皮肉な笑みが口の端に漏れる。きっとわたしは「だれか」に待っていて欲しかったのだ。会いたい人がいないから。今までそんなこと考えもしなかったのに。それだけのことでわたしの心には苦いものが溢れた。つづく青の声はわたしの中の汚濁をかき消すように透き通って聞こえた。

「でも、これだけは信じて」

「僕はずっと君を待っていたんだ。気の遠くなるような永い時間」

    耳元で海の渦巻く音がする。わたしの安息が終わりを告げようとしていた。乞うような気持ちで少しでも長く今が続けばいいと本気で願ってしまう。こんな都合のいいこと、長くつづくはずがないのに。

「僕は此処で待っている」

「また会えるのをたのしみにしているよ。夕凪」

   どんどん耳鳴りが激しくなっていく。それに合わせて心臓が自分のものではないように乱暴に早鐘をうつ。

   目の前の青の姿が見る影もなく歪み、マーブル模様になる。青の言葉ばかりが幾度も耳の奥で響いた。

『まっていた』

    頭のどこかがキリキリと絞り上げられるように痛む。もう、何も見えない。耳は青の言葉を再生し続ける。

『まっていた』

  その言葉を最後にわたしの意識は再び途切れた。

   次に目が覚めると、目の前には病院の白い天井があった。わたしは海に行った日の二日後、浜に打ち上げられているところを救助隊に保護されたそうだ。目覚めた時には、溺れてから四日が経過していた。周りはまるでわたしが生き返ったかのように扱った。大人たちは口々に何があったのか聞きたがった。けれどわたしは決して青のことを誰かに話そうとはしなかった。話したところできっと信じられないだろう。わたし自身あの体験を一種夢のように感じていた。

   それでも、あれは本当にあったことだ。それを証し立てるように、事件以来わたしの左足には薄い青色の痣が残った。この痣だけがわたしと青とを結んでいる。

 あざに触れるたび、青の声が蘇る。

『千年』

『千年まっていた』

それはまるで、絶え間ない誘いのように。

 

 

 

『海のなか  2』へつづく。

 

***

 

 

次話はこちら。

 

kuromimi.hatenablog.com

 

 

 

 

他にもこんな小説を書いています。

 

kuromimi.hatenablog.com

kuromimi.hatenablog.com

 

 

日本人の情感は割と乾いている、と思う。

クロミミ的コミック  第三弾。

青年漫画編。

f:id:KUROMIMI:20191222162853j:image

 

 

 

最近多忙を極めていた故、前回のクロミミ的コミックからかなり間が空いてしまいましたこと、誠に申し訳ござらん。

需要皆無を覚悟しつつ、今回も語っていくぜっっ!最後まで振り落とされずについてこいよぉ〜!←

ちなみにわたしはこのジャンルが一番守備範囲狭いので、オススメあったらどしどしコメントおねがいシャス!!

 

 

 


来世は他人がいい   二人は底辺    春の呪い

小西明日翔

 

来世は〜アフタヌーンで連載中。あとはゼロサムに掲載されました。

前日譚の読みきり「二人は底辺」も合わせて読むとなおよし。前日譚は書籍化されてませんので、電子で読みましょう。

結構過激な性描写と暴力描写がありますので注意。高校生以上にオススメ。


ちなみに、作者の前作「春の呪い」もなかなかの良作。惹かれ合う心情や女の情念・嫉妬がしっかりと描かれています。二巻で綺麗に収まっていてなかなか良き。

ただし、相手役の男性に惹かれた理由のようなものが希薄でそこが残念。

それとも、理由がわからないのに惹かれてしまうから恋は堕ちるもの、ということなのだろうか。でもそれだと春のっていうよりどちらかというと恋の呪いっぽいな…

 


「来世は他人がいい」のあらすじはこんな。

 

ヤクザの孫息子×ヤクザの孫娘の織りなす鬼畜ラブストーリー。

大阪のヤクザの孫娘、染井吉乃はある日突然ヤクザの棟梁である祖父の計らいによって東京のヤクザの孫息子と婚約することになってしまう。

婚約者である霧島は予想に反して好青年。吉野は拍子抜けしてしまう。しかし、それはとんでもない嘘だった。次第に本性を現し始める霧島。吉野は戦慄する。

ヤクザよりもやばいやつに捕まってしまった…!


とにかく、主人公もその周りの奴らもみんなみんなネジ何本か飛んでて気持ちいいくらいの吹っ飛び具合。いやぁ。たまんねっす。

クズ好きにはたまらない珍作。

いっそ清々しいぜ!

これを読んでみんな仲良くクズを補給しましょう。

ちなみにわたしは吉乃のおじいちゃんが好きです。じじい好きにはタマラねぇぜ。

 

 


月に吠えらんねぇ

清家雪子

 

同じくアフタヌーンで連載。この間完結しました。もはやこれは文学。断じて漫画ではない←

多分題名は萩原朔太郎の「月に吠える」からきているのではと。青猫とかもいいよね。ベタだけど。

混沌とした世界観にがっちり心を掴まれて読んだが最後後戻りは不可能。

この作品の沼感はマジで半端ない。


1ページの情報量がえぐいので、ぜったいに紙で読むことを推進。

文学好きにはたまらない名作。

 

「月に吠えらんねぇ」のあらすじはこんな。

□(詩歌句)街。そこにはさまざまな近代文学を彩る詩人・歌人たちが住んでいた。主人公の朔くん(萩原朔太郎)もその一人。弟子のミヨシくん(三好達治)にお世話されながら今日も白さん(北原白秋)へと愛慕の文をしたためていた。


そんなある日、街の丘の上にある天上松に不気味な死体が現れた。その時から□街は変容し始める。

 

とにかく一度は読んでみてほしい。キャラクターは皆、清家さんがそれぞれの作家の詩のイメージから作り出しています。

近代文学が苦手な人もこれを機に読んでみてはいかがでしょう。ぶっちゃけごく最近まで近代文学苦手だったんですが、この漫画を読んでからぐっと読書の幅が広がってより楽しくなりました。

 

 

 

蟲師

漆原友紀

 

アフタヌーンで連載。完結済みです。 

あらすじはこんな。

この世には「蟲」と呼ばれるものがいる。矮小でそしてより命の根元に近い存在。それらは時折怪奇な現象を起こしている。そんな存在と人々を結ぶものを蟲師と呼んだーーー。

 

母がもともと好きで、わたしも小学生から読んでいる名作。何度読み返したかしれません。特に「錆の鳴く聲」「露を吸う群」「虚繭取り」「香る闇」が好きだったなぁ。


結構どうしようもない感じの結末が好きなので、バッドエンド寄りが多めかも?


心温まる愛を描いてくれたと思ったら、今度は人間の醜さやエゴもきっちり描いてくれる。しかもそれが振り切れた残酷さじゃなかったりするのがなかなかどうして生々しい。でも、ウェットすぎない。日本人の感情のあり方ってこんな感じかもって思います。私たちのベースにはどうしても無常という考えがある気がする。意識にしろ、無意識にしろ。


実家に漫画あって見れないから思い出しながらこれ書いてるんだけど、結構細かいとこまで覚えてる。もともと一度読んだ本の内容は忘れない方ではあるんだが、これは特別よく覚えてる感。(そんなだから勉強できねんだよ。)

多分人生の節目節目で読み返したくなる(読み返してきた)名作中の名作。

 

ちなみに、現在作者さんはアフタヌーンにて、「猫が西向きゃ」という新作を連載中。現代版蟲師的な趣。こちらはこちらでなかなか良きです。

 

 


かぐや様は告らせたい

 

ヤングジャンプで連載中。

ついこの間、実写映画化もされたこちら。

結構有名なのであらすじは省略。

全体の印象は

策略×純愛×ギャグ


人物間の対比がうまいこの作者。高度な恋愛頭脳戦を描きつつも刻むようにギャグを挟んでくるので気が狂いそうになるwwwwまあ、この恋愛頭脳戦ものちに形骸化していくのですが。(予定通り)言葉遊びもそこここに仕込まれていて読み応えがあります。

心情描写もかなり緻密で我が事のように不器用な二人の恋を見守ってしまう。安易なエロに頼らない青年誌では珍しい読み物。

 

アニメ二期も楽しみです。

アニメもなかなかの出来で定期的にみたくなっちゃう良作。アニメ二期も手を抜かずに頑張ってほしいところ。


同作者の「ibインスタントバレット」もきになる。

 

 

バイオーグ・トリニティ


ウルトラジャンプにて連載。完結済み。

大暮維人×舞城王太郎がおりなす最強に狂った純愛物語!!

あらすじはこんな。


ヤバい、マジで榎本芙三歩のことが好き過ぎて俺死ぬ。 両掌に穴が空き、好きなものを吸い込んで融合できてしまう病気「バイオ・バグ」。あやういバランスで成り立つ世界で、恋心とか青春とかはどうなっちゃうのよ? まさかの二人が描き出すラジカルポップな青春群像劇、開幕なのだぜ。(コミックシーモア  「バイオーグ・トリニティ」作品内容より全文を引用。)

 

もうね、なんていうか舞城王太郎が絡んだ時点で狂ったものができることは確約されたも同然なのだが。

それにしてもこんなトチ狂ったものを連載し、きっちり完結までさせたウルジャンには最上級の感謝と賛辞を送りたい。(上から目線すぎてまじでどうした)


結構エロかったりグロかったりエグかったり意味不明だったりするので好き嫌いは分かれるかも。でも、近年で最も推したい青年マンガ。


原作者の舞城王太郎については以前のクロミミ的ブック 日本文学編にて語っております。現在、舞城王太郎はジャンプラで連載中の「この恋はこれ以上綺麗にならない。」の原作者を、大暮維人西尾維新の「化物語」をコミカライズしてマガジンにて連載中。どっちもなかなか面白いけど、個人的にはバイオーグトリニティのほうがすきかな?

 

とにかく洒脱でポップでサイコーにクールな作品!一度は読むように。おいちゃんとの約束だぜっっ!!

 

 

ホリミヤ(堀さんと宮村くん)


HEROさんに出会ったのは高校の時分であっただろうか。じんわりと心の底が暖かくなるような作品をいつも描いてくれます。

 

他作品には「雨水リンダ」「浅尾さんと倉田くん」(以下HERO短編集。全て読解アヘンにて無料で読めますが、書籍化もされています)「夜明けはキズのあと」「褪せないシアンの少女A」「浮世メモの夢に、鬼」「アパートに澄む少年」「全ての希望にエールを」「パターンその1駄目人間」「交感ノートは喋らない」「7と嘘つきオンライン」があります。


短編集では「浮世メモの夢に、鬼」が一番好き。まじでHEROさんは絵も話も好みすぎてつらい。「雨水リンダ」の描線が好みすぎて辛かったですwこちらもなかなか良作。サヤがめためた好きで辛かった…。

 

本作ホリミヤはもともとHEROさんが自分のブログ「読解アヘン」にてアップしていた「堀さんと宮村くん」がもともと。(なお、現在も継続してアップされてます。わたしはジーファン版よりこっちのがすき。たまに読むと癒される…)


ホリミヤ」というのはジーファンにて萩原ダイスケの作画でリメイクされて連載されたバージョンの作品名。個人的にはこの萩原さんの作画の表情のつけ方がなんだかすきになれず、不満気味。


ホリミヤのあらすじはこんな。

 

美人でおしゃれで勉強もできる女子高生な堀さん。しかし、家では弟の世話と家事に勤しみ、おしゃれなんか二の次なのだった。

地味でほとんど喋らないなんなら目も合わない根暗高校生宮村くん。しかしその体にはいくつものピアスホールと刺青が。

二人はひょんなことからお互いの真の姿を知ってしまい、交流が始まるのだが…。

 

とにかくクセになる人物間の応酬がたまらないこの作品。わたしは会長推しです。

 

 

 


これもオススメ★


ぎんぎつね(読むといつでもほっこり胸が暖かくなって大好き💕絵もすごくすきなんだなあ。一つ一つのエピソードが丁寧に丁寧に描かれています。落合さより最高。個人的にアニメではこの作品の良さはわからないような気がする。)、

 

 

 

僕らはみんな河合荘富士山さんは思春期、君死二タマフ事ナカレ、おおきく振りかぶって、トモちゃんは女の子!、亜獣譚、たびしかわらん!!、あせとせっけん、進撃の巨人、淫らな青ちゃんは勉強ができない、未熟な二人でございますが、賭ケグルイ、ハッピーシュガーライフ、

 

 

 

ダイナー、ゴールデンカムイ、スピナラダ、出会って5秒でバトル、恋と嘘亜人、東京グール、異常者の愛、マコさんは死んでも自立しない、デビルズライン

 

 

 

ムルシエラゴ、アホリズム(大好きだったこの作品。現在は「堕アホリズム」というスピンアウト作品と「弩アホリズム」を連載中。グロ面白い)、もののがたり、ヒトガタナ、東京喰種、マージナル・オペレーションブラックラグーン(最高に厨二でサイコーにクールでも刊行ペース遅スギィ!アニメのオープニングがいまだに好きでつい見ちゃう。)、シュトヘル(とにかく絵がうますぎる。モンゴルが舞台の異世界転生もの。一度読むとクセになるアク強めの作品。)、ライアーゲーム

 


おやすみプンプン3月のライオン、世界鬼、ノゾキアナ、よつばと!ヨルムンガンド、デスドロ246(高橋慶太郎厨二病者を裏切らない。アニメやってた頃、録画したヨルムンガンドを夜な夜な見てたら、起きてきた母に見られてすごい気まずかったw人がガンガン死ぬシーンだったんだよな。デスドロはサンデーうぇぶりで全話読めるぞ⭐️アニメ化しねーかな)

 

 

 

銀河英雄伝説アルスラーン戦記、昴、め組の大吾capeta、change!、テンプリズム、(曽田正人はやっぱり神だと思う。特に昴とカペタがすき。)謎の彼女Xばらかもんはんだくん、キングダム、宇宙兄弟闇金ウシジマくん新宿スワンバチバチバチバチburst、鮫島最期の15日、

 

 

 

ベルセルクテラフォーマーズ寄生獣GANTZアイアムアヒーロー嘘喰い鬼灯の冷徹ピアノの森ウロボロスワンパンマン

 

 

 

おおきく振りかぶって無限の住人、あせとせっけん、乙嫁語り、聖★おにいさん、荒川アンダーザブリッジあさひなぐ、ブトゥーム、ラストイニングテルマエ・ロマエ

 


ナナとカオル恋は雨上がりのように、からかいじょうずのたかぎさん、ハチワンダイバー極黒のブリュンヒルデノノノノエルフェンリートクズの本懐少女ファイト

 

 

 

ギフト、ブルージャイアント、ハレ婚、デリバリーシンデレラ、YAWARA、monster、happy!、20世紀少年、プルート、忘却のサチコ、アオアシ、ヴァニラフィクション、レディーアンドオールドマン、アッカ、終末のハーレム

 


雪花の虎デッドデッドデーモンズデデデデデストラクションワンパンマン、中卒労働者から始める高校生活、ドットインベーター、ホムンクルスBECK、RIN、内藤死屍累々デスロード、魔法少女サイト魔法少女オブ・ジ・エンド、

 


ヒトクイ、アラクニド、バイオレンスアクション、その着せ替え人形(ビスクドール)は恋をする

 

 

 

kuromimi.hatenablog.com

kuromimi.hatenablog.com

 

 

それではありがとうございました。

 

音楽に言葉をのせる=魔法をかけるということ。

なんだかここ数日、ブログを見てくださる方の数が少しずつ増えてきて嬉しいです。ありがとうございます。よかったら話しかけてくださいね。泣いて喜びます。

 

また、ブックマークをつけてくださった際にコメントを下さった方がいらっしゃったのですが、すみません、はじめたばかりで返信の仕方がわからないので現状はスターのみつけさせていただいてます。嬉しくて何度も見てしまう…。

 

 

おほん。

それでは。

 

 

最近、はまっているバンドを友人Yに勧めてみたらすでに知っていると鼻息荒めに言われました。クロミミです。

 

そのバンドというのがこちら。

 

椿屋四重奏

 

まさか知ってると思ってなかったのでテンション爆上がりして、その後Y氏と行ったカラオケで椿屋四重奏の群青を熱唱しようとして無事爆死しました。もうちょっと修行が必要なようですww

 

元々のこのバンドも他の友人から教えてもらいました。ありがとうO殿。テイストとしては男性版椎名林檎って感じかな?

 

艶ロックと呼ばれるのをどこかでみましたが、まさにそんな感じ。

 

本当に歌ってみるとわかるんだけど、リズムも音程も、えっ!そこでそこくる?!

みたいな外しがあって聞いててかなり楽しく、そしてカッコイイバンド。「外し」を歌えた時の快感たるやもうハンパねぇ。しびれるぜっっ!!!

 

でもね…カラオケ行った時思ったんよ。

群青歌いながら。

いやwwwwwwww歌詞厨二すぎやろwwwwww

無い、が無ひ、やぞ????

 

やべーちょっと笑う。と思って歌いながらちらっとY氏をみたら、Y氏も「無ひwwwww厨二やばww」って言ってました。おお…友よ…。お前もか。

 

ってなったわけです。

でも、ふと思った。

そういえば、これを初めて聞いた時全然厨二っぽいって思わなかったな。って。

たしかに歌詞をカラオケの画面で文字として可視化したというのは大きいんだけど。それでも聞いてわかるレベルの厨二臭さは随所にモリモリな訳で。

 

なんでだろう。

 

考えてみたらすぐにわかりました。

曲に乗せて歌っているのを聞いているからだ、と。

 

歌詞単体では恥ずかしくとも、とびきりかっこいい気の利いた曲とリズムに乗せて歌えばそんなものは問題で無くなる。

 

こういう時、曲って歌詞と音楽でできているんだと実感してしまう。

 

いつぞや、スガシカオとか椎名林檎の歌詞を見ていても思ったことのあるこの感じ。

 

なんでもない言葉でも音楽に乗せれば、特別になる。

ちょっと恥ずかしいカッコつけた言葉でも、曲に乗せればスラっと言えちゃう。

 

音にことばをのせるって、魔法をかけることなのかも、なんて思いました。

 

 

とりま、最高に厨二的だと知りながら全力で臆面もなく歌うって最高にかっこいいな、ロックだなって思ったクロミミなのでした。

 

 

日本人は恥を知ることを美徳としがちですが、私は慎み深いひとより断然恥知らずな馬鹿野郎を愛しています。

 

本当に恥を知り、慎しみ深いひとならば、ぜったいに創作などという行為に手を染めることなどしない。創作するというとことは、少なからず自分をさらけ出すことに直結するから。

 

だから、私は表現することを愛している。

 

音楽が好きなのも同じ理由。小説を愛するのも同じ、詩を愛するのも同じ。映画が好きなのも同じ…。

 

何かを生み出す、創作する、ということはすべからく厨二的なのではないか?と。

 

ならば、私も小説を書く一個人として、これからも厨二病でいようと思います。(治そうと思って治るもんでもないと思うが。)

 

 

 

それでは。

他の音楽がたりはこちら。 

 

 

kuromimi.hatenablog.com

kuromimi.hatenablog.com

 

 

 

オマージュとパクリを分かつものとは。

どうも。

クロミミです。

 

こないだ友人と、サイモン&ガーファンクルのスカボロフェアがマジで呪術だって話をしてたら、なんだか音楽について語りたくなってきたので、今夜は音楽についてのんびり語ります。気が向いたらお付き合いくださいませ。


わたしは音楽を毎朝ユーチューブで聞くのですが、(というか、暇さえあれば聞いてるよね)最近はキタニタツヤさんの「クラブアンリアリティ」とか「sad girl」にはまってます。あと、アーニーフロッグスの「シニカル」にも。

 

どれもいい。

タニタツヤさんは、既存の楽曲をのエッセンスを取り入れつつブラッシュアップさせるのが上手いひとです。

 

「クラブアンリアリティ」は昔のスガシカオ感あるよ。ブギーポップ(旧版)のアニメの主題歌(スガシカオの夕立ち)っぽい90年代臭。これ、夜聴きながらドライブしたいよね〜って友達と話しました。(キタニタツヤは友達が教えてくれた)


「sadgirl」の入りを聴くと、どうしても昔SPECというドラマの主題歌になっていた、「波の行く先」と言う楽曲を思い出しちゃう。大好きだったんです、あの曲も。中学の頃だったな〜。英語版をどうしても歌いたくて頑張ったw

全体としては全然別の印象を受けるんですけどね。


まあ、しっかりオリジナリティーがあるからそこが素晴らしんですが。キタニさんは。


歌詞とかもいいので是非聴いてみてください。

 

アーニーフロッグスは最近のバンドらしい。ツインボーカルがすごく魅力的。男女なんだけど、素敵な声って性別とか超越する大好き。「シニカル」はこれまたノスタルジーを掻き立てるしっとりとした名曲。


これを聞いていると、今は亡きマングローブが作成した「サムライチャンプルー」と言うアニメのエンディング(四季ノ唄)を思い出します。揺れ動く旋律がなんとも切なく、病みつきに。

 

アーニーフロッグスをきいて、四季ノ唄を思い出し、あの曲も大学時代、延々と聞いていたなぁ。と懐かしくなる今日この頃。

 別にわたしは他の音楽に似ているからダメとかそんなことを言いたいわけではありません。

たまに早とちりする人がいるけどまあ落ち着け。


むしろ、そう言うつながりを感じると嬉しくなってしまう。今と過去が繋がって一本の線になっているのを体感するのがどこまでも嬉しい。

 

だいたい、似てるのダメとか言ってたらわたしの大好きなゆら帝ですらダメということになってしまう。(ゆら帝の19と20という楽曲の前奏はジミヘンにクリソツと有名)


そんなの窮屈だよ。やっぱり。

大切なのは、リスペクトがあるかどうか。

そして、なにより揺るがないオリジナリティーが確立されているかどうか。

 


それこそが、コピーとオマージュを分ける部分だと思うのです。

 


温故知新って大事よ?やっぱ。

 

 

 

 


なにかと新しいものがもてはやされる時代ですが、やっぱり新しさだけ求めたって、限界がくるし、何よりも虚しくなるのでは?なんて。

 


大きな流れの中のひとつとして自分が生きている、なんて素敵じゃないか。

 

ほれ、星野源だってめちゃくちゃ昔の音楽大好きなんだぞ??細野晴臣とかはっぴぃえんどとか!ナンバガとか!←脈絡ww

 

オリジナリティーとノスタルジーといえば、サカナクションの「忘れられないの」。

あれも、80年代や70年代のエッセンスを存分に取り入れてますよね。新宝島とかもその傾向あったけど。


サカナクションはPVみるのも楽しいからいっぱい楽しめるな。


あの曲、一時期ハマりすぎて、「モス」や「ユリイカ」(サカナクション)「トーキョーゲットー」(EVE)「秒針を噛む」(ずっと真夜中ならいいのに)とともに延々ときいてましたね。

 

カラオケでも歌いましたとも。ええ。

ちょうたのしい。ほんと楽しい。

 

 

 

絶妙にダンスが気持ち悪いのが素晴らしいと思います。是非一郎さんや他メンバーにはこれからも頑張っていただきたい。彼らはわたしの人生の楽しみなのです。


はーーずっと溜めてたものを語ってスッキリしたぁ。

自己満投稿失礼しました。予定より濃い語りになっちゃった。ほんとはサイモン&ガーファンクルとかアースウィンドアンドファイアのセプテンバーとかも語りたいけど我慢我慢。


皆さまも好きな音楽、思い出の音楽などありましたら、コメで教えてください。

 

今夜は向井秀徳×椎名林檎の「KIMOCHI」とか向井秀徳カバーの「サーカスナイト」を聴きながら幸せに夜更かししたいと思います。

 

ちなみに、過去にもオススメの音楽を語ってます

 

よかったらどうぞ。

 

それではおやすみなさい💤

 

 

 

kuromimi.hatenablog.com

kuromimi.hatenablog.com

 

 

小説・或る夢

 

   夢の中で彩夏は父を殺した。

  いや。あれは自殺だった。そのはずだ。

 汗に湿ったシーツはまとわりつくように思考を束縛する。まだあの夢から醒めきっていないためかもしれない。頭の中では今しがた見た夢が断片的に浮かび上がっては消えを繰り返していた。気の遠くなるような執拗さは何かを戒める意図すら感じさせる。いつもは覚えていたくてもあっという間に消えてしまうくせに。今回は薄れる気配すらない。夢が鮮明であればあるほど苛立ちと恐怖は募るばかりだった。

   十五年生きてきてあんな夢を見たのは、はじめてだ。閉じた瞼の奥では深い闇が滲んでいる。口の中に広がる不味い味はどこから来るのか、絶えることがなかった。ただ、どこかに残った実感はたしかに「父を殺した」時のもののようだった。やはり、自分は父を殺したことになるのか。どうしようもない思いを抱えたまま、彩夏はあの一連の夢を思い出していた。

 


***

 


夢の中で少女は薄暗い下り階段の最上段に立っていた。あたりはじっとりと空気が淀み、息をすることさえままならない。どこかでは蟲の這い回る微かな音がした。階段には頂上に小さな裸電球がぶら下がっている他に、灯りは見当たらない。唯一の光源には大きな蛾が一匹縋り付き、間延びした影を橙色の暗がりに投げかけている。それを鬱陶しく思いながら、少女はひとつ身震いをした。地下階段には真夏だというのに這い上がってくるような冷たさがあった。

こんなにも寒いのはきっと「あれ」のせいに違いない。少女は足下に広がる深い黒に目を凝らした。視線の先では所々角の崩れたコンクリートの段が歪に下へと続いている。しかし少し下ると、そこには無明の闇が巣くっていた。人を喰う怪物のようだと少女は内心思った。どんな人間もあれに呑まれれば二度と戻ってはこられない。そう思わせる何かが漆黒の底には潜んでいる。少女は乾いた唇を舐める。荒れた唇はいつの間にか切れて血の味がした。

 父を殺す。

 考えるだけで身体が火照った。胸に昏い悦びが燻っている。あとはここに父を呼び出すだけだ。生唾をゆっくりと呑み込んだ。少女は手にした凶器に目を落とす。銀色の刃が鏡のように鈍い光を映していた。ぬるりと手が汗ばんだ。ついにこの時が来たのだ。

 少女は今の気分をじっくりと味わい、陶酔に浸った。この上なく満足だ。こんなに快いのはいつぶりだろう。これから起こることを考えている間中、ある種の狂気じみた万能感が身体中を満たした。

   なぜ父を殺そうと思ったのか。今となっては思い出せなかった。ただ、これが長い間少女の中で眠っていた望みなのだった。

「これでお父さんを殺せる」

 少女が興奮に震えながら、噛みしめるように小さく呟いたときだった。閉じていた階段へと続くドアがすぐ後ろで開きはじめて、白っぽい光が暗がりを割って差した。振り向いた少女は眩しさに目を細めた。

「誰かいるのか」

 ドアを開けた人物がこちらを覗き込んで尋ねるた。顔形は影になって判然としない。だが声は紛れもなく父のものだった。それと知るやいなや、焦りと残酷さとが少女を取り巻いた。

(今すぐ殺すべきだろうか)

 父はすぐに思惑に気がつくだろう。少女はナイフを握った手に力を込める。錆び付いたドアが音を立てて完全に開いた。入り口に立つ父の顔が見える。なんとも気の抜けた表情だった。さっきの呟きが聞こえていなかったのだろうか。いや、そんなはずはない。

「お父さん」

  少女は不意打ちのように父を呼んだ。と同時に父の動きが止まる。父の視線は少女の手にしたものに一心に注がれていた。 

 殺す。

 待ちわびた瞬間を迎えてもなお、少女には迷いも震えもなかった。それどころか隅々まで冴えわたっているようだった。そんな少女と反比例するかのように父の動きは鈍く、緩慢だった。

「おまえ、まさか」

 掠れた声で父は言った。その表情は怒りと当惑に満ちているはずだった。少なくとも少女の予想ではそうだった。ーーー裏切られた。父の顔は泣き笑いのときのように歪んでいた。まるで、眼前の事実が嘘であることを心から願い、自分の望みが実現されるのを待ち侘びるように。少女の手からナイフが滑り落ちる。信じられないものを見た気分だった。慌てて拾い上げようとする手を掠めて父が先にナイフを手にした。

 ころされる。

 戦慄とともに見上げた顔に降ってきたのは、生ぬるく赤い雫だった。鮮やかな色が一瞬で目に焼きつく。父は自ら首を切り裂いたのだ。

「な、んで」

 声にならない呟きが少女の口から漏れた。不意に父のギョロリとした瞳と視線が交わる。いやらしい生々しさを含んで父の目は殊更にぬめぬめと光る。少女は父の目が嫌いだった。いつもその瞳に浮かぶ底なしの優しさを恐れた。——そうか。自分はこの人を殺したかったのではない。ただ、今を壊したかった。少女は瞬きも出来ずに凍りついて、床にへたりこむ。嗚咽が喉の最奥ではじけた。

「おとうさん」

「——愛しているよ」

血を吐きながら父は微笑む。それを見てはじめて少女は失敗を悟った。自分の手で殺さなくてはならなかったのに。堪えきれない思いに唇を噛みしめる。

 そして父はとうとう力尽きてふらつくと、膝から崩れ落ち、奈落へと転がり落ちていった。すぐにその姿は重たい闇に包まれて見えなくなる。かすかな物音以外は何も聞こえない。この階段はあまりにも長いから、まだ底にたどりつかないのだろう。

 ふと気がつくと少女は自宅の玄関の土間に立っていた。奥では母が昼食を作っている気配がした。蝉がどこかで喚いて少女の犯した罪を告げている。一切の罪悪感は無い。それなのに、頭の中には暗がりへと落ちていく父の表情ばかりが浮かんで、片時も側を離れようとしなかった。

 あの時、父は悲しんでいたのだろうか。少女は頬に残った返り血を手でぞんざいに拭いながら考える。何もわからなかった。父親の行動の意味も、今の自分の気持ちも。ただ奇妙に空っぽな心が取り残されたように蹲って見つめ返していた。何かを損なってしまった時の感覚が胸の内を占めていた。あの計画を実行することで得られるはずだった「何か」。それを永久に失った。

 少女は靴を脱ぎ捨てて、母のいるキッチンへと続く引き戸にたどりつくと、立てつけの悪いそれに手を掛けた。

「お母さんただいまぁ」

「どこに行っていたの?」

「ちょっとね」

言いながら後ろ手で戸を閉める。木戸が呻きをあげながら閉じた。ふと少女は考えた。父はあの時、苦しみの声をあげなかった。

『愛しているよ』

 低い男の声がどこまでも不快だった。

「お父さんは?」何も知らない母は尋ねる。

「知らない」

少女は母の方へと一歩足を踏み出す。そうか、あの人がいなくなっても、お母さんは気がつかないんだ。

なあんだ。

 少し残念に思う自分が少女は疎ましかった。

 


*** 

 


  目覚めると、掻き毟るような息苦しさが胸を埋めている。自分のベッドの上でゆっくりと身を起こすと全身が汗でべたついていた。枕元にある時計を見ると、午後五時頃を指していた。あの夢を思い返して吐き気がした。とても十数分間の出来事だったとは思えない。夏の暑さにうなされたからか、それともあの生々しい夢のせいなのか、拭い難い気怠さが指の先まで支配していた。

   大きく息を吐き出すと彩夏は立ち上がって窓を開け放つと大きく息を吸い込んだ。窒息しそうだ。外では夢と同じように蝉たちが鳴いている。耳鳴りのような蝉の声が夢の余韻をつれてきた。グラグラと天地が揺れる。ふらついて何かに足を取られた。あっと声もあげないまま勢いよくベッドに倒れこんでいた。

 不意にぞくりとした感覚が背筋を駆け抜けていった。目覚めたその時から幾度も思うことがあった。

ーーいつか、あの夢が現実になるかもしれない。

 彩夏の指先は目覚めた時から冷えきったままだった。躍起になってあたためようと手を握りこんだが無駄だった。ぬくもりだけが自分と夢の中の少女を隔てている気がしてどうしようもなく不安だった。祈るように握りしめても手はいつまでも氷のようだった。逃れられない。あの夢がどこまでも追い縋ってくる。

   夢を見てここまで心揺さぶられたことはかつてなかった。夢での感覚はまだ生々しく疼いていた。

   だが一方で、他人事のように未知の事態を面白がり、ことのなりゆきを見守りたいとも思っていた。理解しきれぬ奇妙な高揚感が心の片隅で主張していた。快と不快が身の内でないまぜになっている。それがより一層気分を害した。

  身綺麗にすれば少しはこの気持ちも晴れるだろうか。汗ばんだ肌はじっとりと重く、息苦しかった。たまにはシャワーを浴びるのも悪くない。

 立ち上がってリビングに行くと誰もいなかった。そういえば、母は買い物に行くと言っていた。父はいつものように庭の畑で農作業でもしているのだろう。このところ父は家庭菜園に凝っていた。我知らず、誰もいない部屋に彩夏は安堵した。

 脱衣所へ行くと洗面台の鏡に自分の顔が写り込んでいるのが目に入った。濃い隈で目は落ち窪み、髪は振り乱している。黄ばんだ肌は黒ずみ灰色がかって見える。とてもだが先ほどまで眠っていたとは思えない。彩香はそっと鏡に映った自分の姿に触れる。

  この顔は父を前にしてどう変わるのか。彩夏にはうまく想像できなかった。やはり取り繕うように笑うのだろうか。父の姿を想像して笑おうとする。結局、唇が引きつっただけだった。笑い方を忘れてしまったのかと考えて、すぐに否定した。元々笑うのは苦手だった。

 そもそも最後に父の顔を正面から見たのが、一体いつなのかさえ怪しかった。ここ数年父と対するとき、彩夏は顔を伏せたままだった。最後に見た父の表情を思い出そうとしても無駄だった。ただ、それが笑顔でないことだけは確かだった。

 服を脱ぎ捨てると、少しだけ気分が晴れた。案外この憂鬱は深刻なものではないのかもしれない。夢から醒めた時でさえ、自分の置かれている状況を俯瞰して楽しむだけの余裕があった。蛇口を捻ると勢いよく水がシャワーヘッドから降り注いだ。心地よい刺激を受けながらさらに彩夏は考える。

   そもそもあの夢について本当に心から思い悩んでいるのだろうか。悩まなくてはおかしいと思っているのではないか。投げ出されたままの問いかけは危うい感触がした。結論を喉の奥に溜め込んだままシャワーを浴びると心地よかった。夢の中の血とは違う、清らかなもの。もう何もかも洗い流してしまいたかった。たとえ、引き替えに後ろめたさを引き受けることになるとしても。大きく口をあけて冷たい水を流し込み、邪魔な髪を掻き上げた。水音に耳を澄ますと一人きりの世界にいるようだった。すると唐突に浴室の磨り硝子の向こうで声がした。

「彩夏? 風呂に入ってるの」

   声の主は母だった。彩夏の手からシャワーが音を立てて落ちる。がしゃん。大きな音が夢の中のナイフとなぜか重なった。次の瞬間には激しい羞恥が彩夏を苛んだ。あの夢から目を逸らそうとしていたことを誰にも知られたくなかった。

「大丈夫? 大きな音がしたけど」

「うん、なんでもないよ」

彩夏はなるべく明るい声で答える。頬をつたって顎から水が滴る。小さな水音までもが母に聞こえるような気がした。嘘をつくのがはじめてではないのにぞくり、と鳥肌が立つ。

「そう? じゃ、風呂から出たら料理手伝って」

「わかった。今日の夕飯はなに」

「ハンバーグ」

 背後で足音が遠ざかっていく。それを待って彩夏は思い切りシャワーの蛇口を開けた。激しい飛沫が耳を塞ぐ。自分は夢の中で父を殺そうとした。では、母はどうだろう。あのまま夢から目覚めなければあるいは——。強い水圧で叩きつけるシャワーは痛みをもたらした。それは、彩夏が自分に与えたささやかな罰だった。

 


✳︎✳︎✳︎

 


   彩夏が濡れた髪を乾かしてからキッチンへ向かうと、既に母は料理を始めていた。小刻みに続く包丁の音が心地よい。彩夏は束の間、自分の心を確かめるように母の姿をぼんやりと眺めていた。

「彩夏、手伝って!」

 母の声には剣がある。慌てて彩夏はエプロンを身につけると、挽肉と玉葱とパン粉を混ぜ合わせる。料理を手伝うのはいつものことだった。

 作業をしながら、彩夏は母の顔を盗み見る。不意にあの夢のことを話してしまおうかと思った。なぜそんなことを思い立ったのかはわからない。理性を置き去りにしたまま、欲望は膨れあがっていった。化け物のようだ。意のままにならない己は何よりも厄介な存在だった。

     決して口にすることなどあってはならないはずだった。あの夢のことを知れば母は自分を恐れ、軽蔑するだろう。彩夏は落ち着きなく視線を動かす。どうしても言いたくてたまらなかった。

「…今日珍しく夢を見たんだ」

気がつくと彩夏は話し始めていた。

「どんな夢?」

「人を殺す、夢」

   自分の硬い声が耳に突き刺さった。もはや身体は言うことを聞かなかった。強い焦りを感じているのに頭の芯は冷えていて、この状況を俯瞰し楽しんでいる。苛立ちと関心の高まりがないまぜになりどうにかなりそうだ。今から始める話を母がどんな顔で聞くのか。待っている間の数瞬、恐ろしいような心地だった。自分が自分でないものに侵され、塗り潰されていくようだ。今の自分はあの夢の少女のように得体が知れない。母が耳を貸さなければよいと思う。しかしそんな心中を母が知るはずもなかった。

「誰を殺すの」

「あのね、変に思わないで欲しいんだけど」

 彩夏は最後の最後で踏みとどまろうとする。まだ「まとも」でいたい。善良な娘として振る舞えという警告が頭を揺らす。すると夢の中の少女が耳元で囁いた。もう遅すぎる、と。あの夢を見た時点で自分はもうおかしい。その言葉と共に心の中に芽生えたのは、諦めにも似た感情だった。

そして彩夏は思い出した。欲望には逆らえない。己に従属して生きていくしかないのだ、と。彩夏の唇はそれを待っていたようにまた動き始めた。

「お父さんを殺したの」

母の反応を目にするのを恐れて、矢継ぎ早に続ける。

「その夢の中で私はなんでかお父さんを殺そうとしてて。そしたら、そこに丁度お父さんが来て、私のしようとしてることに気がついて、自殺しちゃったの」

   そこまで話した時再び父の表情が蘇り、冷たいものが背を滑り落ちていった。そうだ。あんな顔をさせたのは自分だ。泣き笑いの歪んだ顔。どうしてもあの顔を忘れることが出来ない。自分の父に対する感情があんな夢を見せたのだ。でも一体どんな感情があれを生み出した?答えの出ない問いが積み重ねられていく。彩夏は言った。

「べつにお父さんのこと、嫌いってわけでもないのにね」

   父への想いは単なる好き嫌いでは計りきれない。言葉にするにはもう長い時間が経ちすぎていた。この十何年を要約しうるものなど、あるはずがないと思えた。すると彩夏に代わって母が口を開いた。

「夢だからね。どんなことが起こっても不思議じゃない」

  母の声は優しかった。

「ほんとうに?」

「もちろん。でもなんでそんな夢を見たんだろうね?」

 そう言って母は料理の手を止め、彩夏を振り向いた。母の微笑みには不自然さがあった。きっと母は努力しているのだ、と彩夏は思った。脆く傷つきやすい子供の心を守ろうとしている。秘密を告白した自分を受け入れることで。

 すると彩夏はどこか肩の力が抜けるような感覚を覚えた。それからすぐに後ろめたくなる。彩夏は母を知らず知らずのうちに試していた。母が自分を肯定するのか、自分への愛情を示そうとするのかどうかを。ただ自分のためだけに母を弄んだ。

「わかんない。でも私、久しぶりに見た夢がそんなだったから吃驚しちゃって」

「いつぶりなの?」

「一年、くらいかな」

少女はそっと母親の顔を窺う。しかしそこに非難の色は無かった。彩夏は再び話し始めた。

「夢の中の私、別人みたいだった。…怖かった」

「私もそういうこと、よくあるよ」

そう口にする母の方を彩夏は思わず振り向いた。

「じゃあ、夢の中での私は今の私とおんなじじゃないってこと?」

「うーん。でも、そのままってことは無いでしょ。…なにか関係はありそうだけど」

「……そっか」

「どうかしたの」

母の問いかけが曖昧に響く。彩夏の思考はその時だけ麻痺した。彩夏は口から言葉が滑り落ちていく感覚に総毛立った。

「あの夢の中で、私はお父さんを殺せることが嬉しかった、気がする。これで解放されるって」

呟く彩夏の瞳はどこか遠くを見つめていた。彩夏は夢の少女と現実の自分を重ね合わせていた。夢の正体を探ろうとするように。

「解放? なにから」

無表情な彩夏を母は複雑な面持ちで眺めている。母の問いに彩夏は何も言えなかった。夢での感覚も感情も言葉にしようとした途端、消えてしまう。しばらく経って漸く母の沈黙に気がつくと、彩夏は急拵えの苦い笑みを浮かべた。

「ごめんね。こんな変な話いきなりして」

だが、彩夏の声が聞こえないかのように母は押し黙ったままだった。しばらくの間、二人の間には洗い物の水音だけが響いていた。やがて、母が震える声でこう告げた。

「少しは気にした方がいい。そんな夢を見るってことはあんたは何か屈折してるんだから」

    母の言葉を聞きながら彩夏は失望を感じていた。自分にも母にも。いつもこうだ。他人の求める「正解」がわからない。何かが足りない。大切な何かが。きっと足りないものの正体を母は知っている。けれど、答えを母に求めることはこの先もないだろう。確信を持ってそう言えた。母から答えを手に入れるだけでは何かが欠けてしまうから。

    そして彩夏は自分が一体何をしようとしていたのかにようやく気がついた。また他人を試すことで愛の証を得ようとしている。案外、あの夢の根源も同じなのかもしれない。夢の中で「少女」は父を殺すことで愛情を試そうとしたのだ。殺されてなお自分を愛するのか。だとすれば「あの表情」を望んだのは自分だ。自分で欲したものに今苦しめられている。

「テーブルの上の用意をして。焼くのは私がやっておくから」

母が言った。逃げるように、キッチンマットを持ってリビングへと向かう。気遣うような母親の息づかいが煩わしかった。

 するとその時、玄関から擦れるような音がして引き戸が開いた。父が畑から帰ってきたのだ。気がつくともう日も落ちかけ、窓から差す陽光は紅に染まっている。「ただいま」という声が聞こえたときにはもう遅かった。人影はもう目の前に立っていた。その後ろではまぶしい夕日がこぼれ、より一層部屋におりた闇を濃くした。父は尋ねる。

「今日の晩ご飯はなんだ?」

彩夏は咄嗟に顔を伏せた。頭の中に闇に呑まれる寸前の父の表情が翻って消えた。身体がさっきからずっと小刻みに震えていることがはっきりわかった。何もかもめちゃくちゃにしてしまいたい衝動に身体が脈打つようだった。

「彩夏?」

 父の声が降ってくる。いつもはろくに口もきかないのに、父はこうして時折話しかけてきた。なぜそうするのか、彩夏には不思議だった。そして鬱陶しかった。父と関わる時、彩夏はいつも鉛を呑んだように苦しい。なにもかも思うようにいかない。感情の糸が絡み合ってそれ以上は何も考えられなくなる。

「彩夏、何か言いなさい」

困惑と苛立ちのこもった父の声に身体を揺らすと、彩夏は自分の部屋に向かった。待ちなさい、という父の声が背を摑む。一瞬振り向いた彩夏が見たものは、父の目だった。日に焼けた褐色の肌に縁取られて瞳が戸惑いに揺れている。たまらなくなった彩夏は部屋へ駆け込みドアを閉める。これ以上あの場にいれば、何かを口走ってしまいそうだった。閉じたドアに背を預けて大きく息を吐き出す。その時、ドアの外で母の声がした。

「彩夏、ご飯は?」

「いらない!」

    叫ぶように言うとベッドに身を投げ出した。頭の中ではまだ父の瞳がこちらを見つめ返していた。もうわからなかった。夢の中の男と現実の父が別物かどうかなど。父の目。あれが彩夏をうちのめす。何度も、何度も。

部屋の中にはあの夢と同じ暗闇が満ちていた。だが、不思議と胸騒ぎはしなかった。さっきまでの気持ちが溶けるようになくなって、今は穏やかだった。柔らかな闇に身を任せて彩夏は寝返りを打った。視線の先ではカーテンの隙間から差し込む細い日の光が棚の一角を赤く照らしていた。そこにはひとつのふるいぬいぐるみがあった。不意にぬいぐるみと目が合う。その猫のぬいぐるみはかつて彩夏のお気に入りだった。だが今では黒い毛が剥げ、惨めな姿を晒していた。あんなにもぼろぼろになるまで抱きしめたものをいつ手放したのか。彩夏はもう覚えてはいなかった。猫の黄色い目が彩夏を責めていた。不意にその目が父の目と重なった。

   唐突に父の目を嫌う理由がわかった気がした。あの目が変わらないからだ。彩夏は奥歯を噛みしめた。自分ばかりが変わってしまったのだと突きつけられるからだ。あそこには遠い過去がある。父の手を握って歩いた頃の他人事のようなあたたかさが。あの頃の父は笑っていたはずだ。それなのに、かつて見上げたはずの表情が今ではこんなにも遠い。時折、その事実がひどく虚しく響いた。だから父に見つめられると苦しい。あの瞳の奥で幼い自分が責めるから。

 そして彩夏は悟った。あの夢からは逃れられない。決して。頭の片隅で父の表情がまた甦る。夢で会うのだろうか。あの父と。彩夏はしばらくの間生温い室の虚を眺めていた。いくら考えてもこの先のことは分からなかった。どこかで耳障りな蛾の羽ばたきが聞こえる。眠りがあの夢へと彩夏を誘っている。仄暗く湿ったあの場所に満ちた空気を彩夏はまだはっきりと覚えていた。眼裏の黒は夢の中の闇より深かった。彩夏は手を伸ばし、沈み込んでゆく。あの夢の先に待つものは夢の中の男だけが知っている。それだけは確かだった。