前話はこちら。 第四章 彼女が望む理由 珍しく向こうから連絡を寄越したのは、帰省が終わってすぐのことだった。その内容は簡潔で「部屋の片付けをするから今週は来るな」ということらしい。今更部屋が片付いていないことを気にするような奴じゃないはずだが…
前話はこちら。 kuromimi.hatenablog.com 間話2 「深夜:side晶」 深く静まり返った夜のことだった。 誰かがうめいていた。男の掠れた声が壁向こうから聞こえる。作業の手を止め、わたしは知らぬ間に歩の部屋の前へと立っていた。ドアノブを引くと、くぐもっ…
前話はこちら。 kuromimi.hatenablog.com *** 晶は結局翌日には早々と片付けを終えてしまった。後には空の部屋だけが残された。まるでそこだけ持ち主を失ったかのようだった。そうして姉はその後一日だけ滞在し、実家からアパートへと戻っていった。正直…
前話はこちら。 kuromimi.hatenablog.com 両親はもうすぐ10時になろうかという頃に合わせて起きてきた。少し遅い朝だった。父が先に起きて、ついでに母を起こして連れてきたらしい。父も母も朝が弱いわけではない。やはり昨日の酒が効いたんだろう。 両親が…
前話はこちら。 kuromimi.hatenablog.com *** 朝飯は予定通り目玉焼きにウィンナーを添えた。両親の分も合わせて作ってしまう。二人とも今日まで休みで明日から仕事らしい。昨日そこそこ呑んでいたから、もしかしたらなかなか起きてこないかもしれない。…
前話はこちら。 kuromimi.hatenablog.com *** 姉が帰省した翌日。壁の向こうから聞こえる物音で目覚めた。壁を挟んだ隣部屋は姉の部屋だ。 「姉さんか…」 夢現だった意識は覚醒へ向かう。低いうめきと共に無意識で呟いていた。同じ家に姉がいることに慣れ…
前話はこちら。 kuromimi.hatenablog.com *** 予告通り帰省した姉をみて、俺はほっとため息をついた。正確には、その手首を観察していた。最近彼女のリストカット跡はかなり薄くなってきている。それでもよく見れば分かってしまう程度には残っていた。今…
前話はこちら。 kuromimi.hatenablog.com 第三章「家族」 ある晴れた月曜の朝だった。 秋晴れを見上げつつ洗濯物を干していると、母がこんなことを言い出した。 「あ、そうだ。晶だけどね、今週末帰ってくるって連絡あったわ」 「え」 振り向くと、ソファー…
前話はこちら。 kuromimi.hatenablog.com 間話 「特異な関係」 歩と初めて話したのは、小学校へ入学したその日だった。あいつは水無瀬歩で俺は槙原拓人だったから、席順が前後だったんだ。知り合ってすぐの印象は「すごい奴」だった。 その日、配布されたプ…
前話はこちら。 kuromimi.hatenablog.com *** 晶が高校を卒業してから俺が高校を卒業するまでの4年間は、俺達に一番距離があった時期だと言える。物理的にも精神的にも。俺が高校に入学してからは、特にそうだった。同じ家にいても、ほとんど会話もしない…
前話はこちら。 kuromimi.hatenablog.com ところで校内での晶との交流は、俺の対人関係にも変化を与えた。平凡な奴に「ヤバい奴とやり合えるすごい奴」というステータスが追加されたのだ。だからなのか、幼なじみの拓人とこんな会話をしたりもした。 「お前…
前話はこちら。 kuromimi.hatenablog.com *** 中学生になると、俺は「あの」水無瀬晶の弟として扱われた。中高一貫校だったから余計にそういう目で見られた。小学校でもそんな感じだったからむしろ俺としては懐かしさすらあった。そもそもその程度のこと…
前話はこちら。 kuromimi.hatenablog.com 第二章 「晶と俺」 ろくでもない姉との出会いを俺ははっきりと思い出せない。気がついたら晶は俺の姉で、俺は晶の弟だった。だから10歳の頃、親から実はお互い連れ子なのだと聞かされるまでは、普通の姉弟なんだと思…
どうも。クロミミです。 お盆休みを過ごしていたら、どういうわけかここ五年くらいあたためていた小説のネタが急に輪郭を持ち始めました。そんなこんなで急遽連載小説を増やすことに。それが本作「アキラの呪い」です。 急に決めたので小説のトップ画は写真…
前話はこちら。 kuromimi.hatenablog.com *** 自殺現場を目撃した時の気分を思い出して、その場で吐いてしまいそうになる。体が揺らぎ、手にしたビニール袋を取り落としかけた。俺はいつまで平常を取り繕えばいいんだ?…永遠に?自分の弟がこんな気分でい…
前話はこちら。 kuromimi.hatenablog.com *** 姉をそのカフェで見つけたのは、誓って言うが偶然だった。そもそも大学近くのそのカフェに足を運ぶことすら久々だったのだ。普段行きつけのカフェはまた別にあったわけで。 ていうか、なんでこんな言い訳じみ…
前話はこちら。 kuromimi.hatenablog.com *** 8月の夕方は日暮れとは言ってもまだまだ蒸し暑い。うんざりするような暑さだが、俺は夏が一番好きだった。全てのものが色を取り戻し、生き生きと輝きを増して見える。そういえば晶は夏を忌み嫌っていたな、と…
第一章 「水無瀬晶の弟」 俺の姉について話しておきたい。 水無瀬晶は厭なやつだ。無神経で傍若無人でニコリとも笑わない。性悪な女だ。 姉といっても、血は繋がっちゃいないんだけど。ただうちの母親とあいつの父親が結婚しただけ。よくある話だ。晶と俺と…
前話はこちら。 kuromimi.hatenablog.com 次の日も、その次の日も夕凪は俺を待っていた。俺はその姿を見るたび、何か責められているように感じた。そしてようやく気がついた。夕凪がいなかったあの日、自分が傷ついていたということに。そして傷を持て余し、…
前話はこちら。 kuromimi.hatenablog.com *** 境内に誰もいないことを悟った時の心情をどう言い表せばいいだろう。虚しかったわけじゃない。悲しかったわけじゃない。ただ、心底がっかりしていた。今日も当然のように夕凪がそこにいると無根拠に信じてい…
前話はこちら。 kuromimi.hatenablog.com 翌日、夕方が近づいてくるとわたしは社殿の影に身を隠した。それが悪いことだとわかっていたけれど、どうしても見たかった。わたしの不在を知った陵の表情を。その顔色ひとつでわたしの中の何かが決定的に動いてしま…
前話はこちら。 kuromimi.hatenablog.com *** あの日から毎日気がつけば境内に腰を下ろしていた。なぜかそうしているだけで息をするのが楽になる。不思議な心地だった。相変わらずすることはなかったけれど、心は穏やかだった。わたしの目は気がつくと石…
前話はこちら。 kuromimi.hatenablog.com *** あの夜から毎晩夕凪に会いに行った。特にこれといった心境の変化が自分の中で起こった訳ではない。ただ、気がつくと足が神社へと向かうのだった。夕凪もまた日没の境内に毎日いた。俺を待っているのか、それ…
どうも。 クロミミです。 新年度になり正直クソ忙しいですが、なんとか今年中に最後まで本作を描き上げたいですね。 さて。そんなわけで今回は連載小説「海のなか」のまとめをお送りします。 今まで読んでくださっている方も、正直更新頻度ゴミすぎて忘れち…
「海のなか」もいよいよ最終局面になってきました。以下の登場人物紹介を読んで完結までお付き合いいただけると嬉しいです。今回の登場人物紹介は今までのまとめ記事に載せていたものに大幅加筆しています。以下には「海のなか」(39)までのネタバレも含み…
前話はこちら。 kuromimi.hatenablog.com *** 気がつくと陵とはもう別れていて、わたしはひとり夜道を歩いていた。さっきまで食べていたおでんのせいか、腹の底はほかほかとぬくもりを宿していた。 無意識のうちに頬に触れていた手をそのまま握り込むと冷…
前話はこちら。 kuromimi.hatenablog.com *** 夕凪は零れる涙を止めることができないのか、微かに体を震わせていた。けれどそのうち諦めて、流れてゆく涙をも食うように無言で食べ始めた。俺はといえば、どうすればいいのかもわからず、気がつけばつられ…
前話はこちら。 kuromimi.hatenablog.com 「ありがとう…」こぼすように呟くと、夕凪は暗がりの中じっとこちらを見つめていた。 「なんか変?」 戸惑って俺は半笑いになってしまう。すると、夕凪ははっとして「いや、本当に来てくれると思ってなくて」 と言っ…
前話はこちら。 kuromimi.hatenablog.com ※今回は海のなか(35)と(36)は連続更新になります。近日中に(37)も更新予定。 *** 無理に走り出したせいで、走り方はまだどこかぎこちなかった。さっきまでのあまりにも自分らしくない強引なやりとりに、い…
前話はこちら。 kuromimi.hatenablog.com *** 見つかってしまった、と思った。 今だけは誰にも会いたくなかったのに。けれど、よく考えてみれば会わないはずがないのだ。陵の家はこの神社を抜けてすぐだった。そんなことすら頭から抜けてしまうほど考えに…