KUROMIMIには本が足りない。

KUROMIMIには本が足りない。

活字がないとダメ系ヲタク。小説・音楽・詩・ときどき映画。自作の小説も書いてます。

海のなか

小説・海のなか(18)

前話はこちら。 kuromimi.hatenablog.com *** 教室を出るとともに、また俺は囚われてしまった。 あの問題。未来という問題。 考えたくないと思えば思うほど逃れられなくなる。泥濘に足を取られ、はまり込んでゆく。もう誰のせいにもできない。逃げていた…

小説「海のなか」まとめ3

どうも。クロミミです。 さてこのまとめ記事もとうとう三回目。 先日17回目の更新をいたしました連載小説「海のなか」。読んでる人がいるのないないのかもよくわからんが、いると信じて小説の内容を今回もざっとまとめてみたいと思います。 てか、更新のたび…

小説・海のなか(17)

前話はこちら。 kuromimi.hatenablog.com ※※※ こういうことは苦手だ。俺は再確認する様に噛み締めた。我ながら、とことん裏方気質というか。こういうことはきっと佐々木なんかに向いているに違いない。けれど、悔いてももう遅い。断りきれなかった俺が悪い。…

海のなか(16)

前話はこちら。 kuromimi.hatenablog.com ※※※ 「だめ、サヤ。まだ目は伏せてて!マスカラ失敗する」 愛花がピシャリと言った。我ながら私も往生際が悪い。ここに座ってからもう、15分は経っている。愛花はなおも腰をかがめてマスカラを塗り重ねていた。メガ…

小説・海のなか(15)

前話はこちら。 kuromimi.hatenablog.com もう十月だと言うのに、体育館には熱気が充満していた。息苦しさにもがくように汗を拭う。壇上では生徒会長の佐々木が挨拶をしていた。ようやく今日がはじまる。準備作業の大変さを思うとそこから解放されることも相…

小説・海のなか(14)

前話はこちら。 kuromimi.hatenablog.com 第六章 「萌芽」 『10月3日 木曜日 今夜はなんだか落ち着かなくて、彼に会いに家を抜け出した。このところは、毎晩会いに行っている。』 夜空を引っ掻いたような頼りない三日月が浮かんでいた。今にも消えそうな感じ…

小説・海のなか(13)

前話はこちら。 kuromimi.hatenablog.com 「で?なんかあったわけ。じゃなきゃここにおれを呼んだりしねぇだろ」 一馬は海風に目を細めながら言った。その横顔を心底にくいと思う。ただ自分に会いたくなったから、とは考えないんだろうか。 もう、あたしは理…

小説・海のなか まとめ2

どうも。 クロミミです。 亀の歩行のごとき更新頻度の本小説「海のなか」を毎度ご閲覧いただき誠にありがとうございます。 最近、自分でも思いもしなかったキャラ一人一人の一面が見えてきて楽しい今日この頃。私の作る登場人物は大体クズです。クズ好きなも…

小説・海のなか(12)

前話はこちら。 kuromimi.hatenablog.com ※※※ 目を細めて黒く染まった海を見つめていると、夜風が渡る気配がした。夜があたしを呼んでいる。水平線の向こうでは、夕日の名残が溶けて無くなろうとしていた。夜と昼のあわい。空は夜にもなりきれず星を煌めかせ…

小説・海のなか(11)

前話はこちら。 kuromimi.hatenablog.com *** 外に踏み出すと、すでに薄暮が降りていた。あれが最後の夕日だったらしい。と、殊更に赤く染まっていた夕凪の頬色が頭を過ぎる。違和感を覚えて掌を上に向けてみると、僅かに濡れる。霧のような雨が音もなく…

小説・海のなか(10)

前話はこちら。 kuromimi.hatenablog.com 問いが口を離れてから、随分と長い空白が訪れたように感じた。それは問いかけ自体が無に帰っていく様な時間だった。奇妙だ。この沈黙は重くもないし、ましてや心地よくもない。だから私もなんだかまた話し始める気に…

小説・海のなか(9)

前話はこちら。 kuromimi.hatenablog.com kuromimi.hatenablog.com *** 到着してしばらく経っても、まだ小瀬家のインターホンに手を触れることを躊躇っていた。夕方とはいえ、まだ秋になりきれない日差しは首筋をジリジリと焼き始めている。何処かからか…

小説・海のなか(8)

前話はこちら。 kuromimi.hatenablog.com 第五章 歪 その日のLHRでは、文化祭当日の役割分担を決めていた。私のクラスは喫茶店をやる予定だ。当日は調理班と給仕班にわかれてそれぞれにシフトを組むのだ。誰が決めたのか、女子生徒はフリルのついた可愛らし…

小説・海のなか まとめ1

どうも。 クロミミです。 今回は、先日また最新話を公開しました自作連載小説「海のなか」のまとめなどを少々していきたいと思います。よろしければお付き合いください。 いつも読んでくださっている方々、ありがとうございます。スターがつくたびウキウキし…

小説・海のなか(7)

前話はこちら。 kuromimi.hatenablog.com 第4章 ダイアローグ 「それにしても、随分とありふれた娘を選んだものだ」 妖艶な女は興醒めたようにぽつりとこぼした。低く澄んだ声が虚空に広がっていった。私は女の横顔に目をやりつつその美しさにぞっとした。秀…

小説・海のなか(6)

前話はこちら。 kuromimi.hatenablog.com ※※※ 駅前の寂れた商店街をまっすぐに抜け、小さなトンネルを潜ると坂の上に市立図書館が現れる。濃い樹木の緑に石壁の白が夏の光に照らされて映えている。坂の下から図書館を見上げるのが好きだった。ふとした瞬間に…

小説・海のなか(5)

前話はこちら。 kuromimi.hatenablog.com *** 閑散とした駅を後にして、気がつくとわたしは歩き出していた。その感覚は自ら歩いているというより、誰かに導かれて、という感じだった。考えなくても勝手に身体が動いていく。未知の感覚に全神経が集中して…

小説・海のなか(4)

前話はこちら。 kuromimi.hatenablog.com 第三章 盲目的な幸せ いつもそうであるように、台風はあっという間に通り過ぎて、週末は雲ひとつない真っ青な晴れ模様となった。目の眩むような空の青さを見続けていると、何か途方もなく大きな怪物の口を前に立ち尽…

小説・海のなか(3)

前話はこちら。 kuromimi.hatenablog.com *** 陵からメールがあったのは、新学期が始まって数日が経った日の夜だった。それは陵からの初めてのメールだった。海に行く前に陵とはメールアドレスを交換していたけれど、メールのやりとり自体はしたことが無…

小説・海のなか(2)

前話はこちら。 kuromimi.hatenablog.com 第二章 嵐の日には わたしが浜辺で発見されたその日から予報外れに天気が崩れ、退院し学校に行く頃には嵐が街を襲った。陸に帰ってきてからずっと、とめどない雨音がBGMのように耳元で囁いている。 雨は好きだった。…

小説・海のなか(1)

登場人物名にミスを発見したため、再投稿させていただきます。 第零話 プロローグ あれからもう随分と永いあいだここにいるような気がしている。 いまが一体いつなのか、もうわからない。 それほど時間が経ったのだ。あの時から。すべてを曖昧にさせるほどの…