KUROMIMIには本が足りない。

KUROMIMIには本が足りない。

活字がないとダメ系ヲタク。小説・音楽・詩・ときどき映画。自作の小説も書いてます。

第七章 追憶

小説・『海のなか』(26)

前話はこちら kuromimi.hatenablog.com *** 今宵も13年前のあの日のことを語らなければならない。忘れないために。そして、叶えるために。 13年前、あなたはあの子を抱えてここに降り立った。あの時の光景は今でも色鮮やかだ。時を切り取り保存する術があ…

小説・「海のなか」(25)

前話はこちら。 *** kuromimi.hatenablog.com 付き合い始めたからといって、ほとんど変化はなかった。変わったことといえば、必ず待ち合わせて帰るようになったこと。それから時々手を繋ぐようになったこと。それだけだ。付き合っていると見せかけるため…

小説・「海のなか」(24)

前話はこちら。 kuromimi.hatenablog.com *** もう秋になり始めた頃のことだった。秋といってもまだまだ残暑は厳しい。言い訳のように頭上では鱗雲が透き通り、もう秋だと主張していた。 放課後を俺はまた愛花と過ごしていた。この頃は帰りが一緒になると…

小説・「海のなか」(23)

前話はこちら。 kuromimi.hatenablog.com *** 例の一件から、愛花は何かと俺に話しかけてくるようになった。俺はといえば、美しい猫が俺にだけ特別なついたかのような、幼い優越感を感じて日々を過ごしていた。実際、あの日から愛花の鋼鉄の扉はほんの少…

小説・「海のなか」(22)

前話はこちら kuromimi.hatenablog.com 第七章 「追憶」 愛花と出会った時から、きっともう手遅れだった気がする。 今から思えばあれが、一目惚れというやつだったのかもしれない。もう昔すぎてよくは覚えてない。けれど、いくつかの場面が断片的に焼き付い…