KUROMIMIには本が足りない。

KUROMIMIには本が足りない。

活字がないとダメ系ヲタク。小説・音楽・詩・ときどき映画。自作の小説も書いてます。

第五章 歪

小説・海のなか(13)

前話はこちら。 kuromimi.hatenablog.com 「で?なんかあったわけ。じゃなきゃここにおれを呼んだりしねぇだろ」 一馬は海風に目を細めながら言った。その横顔を心底にくいと思う。ただ自分に会いたくなったから、とは考えないんだろうか。 もう、あたしは理…

小説・海のなか(12)

前話はこちら。 kuromimi.hatenablog.com ※※※ 目を細めて黒く染まった海を見つめていると、夜風が渡る気配がした。夜があたしを呼んでいる。水平線の向こうでは、夕日の名残が溶けて無くなろうとしていた。夜と昼のあわい。空は夜にもなりきれず星を煌めかせ…

小説・海のなか(11)

前話はこちら。 kuromimi.hatenablog.com *** 外に踏み出すと、すでに薄暮が降りていた。あれが最後の夕日だったらしい。と、殊更に赤く染まっていた夕凪の頬色が頭を過ぎる。違和感を覚えて掌を上に向けてみると、僅かに濡れる。霧のような雨が音もなく…

小説・海のなか(10)

前話はこちら。 kuromimi.hatenablog.com 問いが口を離れてから、随分と長い空白が訪れたように感じた。それは問いかけ自体が無に帰っていく様な時間だった。奇妙だ。この沈黙は重くもないし、ましてや心地よくもない。だから私もなんだかまた話し始める気に…

小説・海のなか(9)

前話はこちら。 kuromimi.hatenablog.com kuromimi.hatenablog.com *** 到着してしばらく経っても、まだ小瀬家のインターホンに手を触れることを躊躇っていた。夕方とはいえ、まだ秋になりきれない日差しは首筋をジリジリと焼き始めている。何処かからか…

小説・海のなか(8)

前話はこちら。 kuromimi.hatenablog.com 第五章 歪 その日のLHRでは、文化祭当日の役割分担を決めていた。私のクラスは喫茶店をやる予定だ。当日は調理班と給仕班にわかれてそれぞれにシフトを組むのだ。誰が決めたのか、女子生徒はフリルのついた可愛らし…