KUROMIMIには本が足りない。

KUROMIMIには本が足りない。

活字がないとダメ系ヲタク。小説・音楽・詩・ときどき映画。自作の小説も書いてます。

連続小説・「アキラの呪い」(5)

 

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前話はこちら。

 

kuromimi.hatenablog.com

 

 

第二章 「晶と俺」

 

   ろくでもない姉との出会いを俺ははっきりと思い出せない。気がついたら晶は俺の姉で、俺は晶の弟だった。だから10歳の頃、親から実はお互い連れ子なのだと聞かされるまでは、普通の姉弟なんだと思ってた。けど、知らされた時もあんまり驚かなかったんだよな。だってさ、晶と俺は全然似てない。性格も見た目も全部。だから違和感みたいなものは昔からあったんだろ、多分。あいつと俺が家族になった当時、俺は6歳であいつは9歳だった。そりゃあ、就学前のガキの頃の記憶なんて曖昧にもなるだろう。なんならもう少しデカくなってからのことすらほとんど覚えてない。流石に姉は記憶があるだろうが、その頃については全くと言っていいほど話したことがない。あいつは元々あんまり喋らないし、俺は俺で扱いづらい姉に遠慮してたらどんどん尋ねづらくなったんだ。だからほとんどなんの記憶もない。けど、推測くらいはできる。あいつの性格から察するに、突然降って沸いた義弟なんて面倒な存在は徹底的に避けたはずだ。あいつは自分のペースや領域を保つことに異常な執着を見せる。あれはちょっと普通じゃないし、なんなんなら怖い。だから、当時俺たちは会わないし、話さないし、見ないし、存在しない。そんな感じだったろう。だから俺が覚えてないってよりは、特に覚えておけるような出来事がなかったんじゃないかって予想してる。結構いいとこ突いてると思うんだけど。晶に尋ねたってまともな答えなんか返ってくるわけないし、親は親でもしも本当にそうなら、気まずさがえげつないことになる。これでもメンタルは強いつもりだが、ストレス要因は出来るだけ避けて生きるに限る。

 ともかくそんな感じで俺の幼少期は空白。記憶が霞みがかった地帯を完全に抜けるのは、小学校高学年に入ってから。つまり、義理の家族だと知った少し後ってことになる。10代になりたての俺はサッカーとか野球をなんとなく友達とやって騒いでる主体性のないただのアホだった。体を動かすことは嫌いじゃなかったが、別に好きってわけでもなかった。かといって自分から読書するわけでも、ゲームをするわけでも、勉強をするわけでもない。ただ流れに身を任せ、周りが好きだと言ったことを一緒にして、やりたいと言われたことをやった。それはそれなりに楽しかったし、暇潰しにもなった。何より考えなくていいから楽だった。そのせいか、妙なことを言われたことがある。「ノリ悪いなら混ざってくんな」とかなんとか。あの時は「ふざけんな」って一発殴ったっけ。あの頃は訳分かんなくて腹が立ったけど、今になって、なんとなく理解出来るような気もするんだ。俺は遊びを全力で楽しんでなかった。それが勘に障ったんだろう。そりゃそうだ。だってやってることが好きなわけでも嫌いなわけでもないんだからな。そりゃあ、本気で楽しんでる奴からしたら、水を差されたような気にもなる。

 なんとなく勿体無いことしたかな、と思わなくもない。けど、仕方ない。俺はまだまだ子供で自分を満たす方法を知らなかった。

 さて、一足先に中学に上がったばかりの姉がどうだったかというと、早速いじめられていた。こう言ってはなんだが、そうなるべくしてなった感は否めない。なにしろ、思春期の敏感な心にあいつの性格は刺激的すぎる。いじめられていることは親も俺もすぐに気がついたが、具体的な対処はできなかった。気がついたのとほぼ同時にいじめが終わりを迎えてしまったからだ。なぜなのかは後からわかった。晶はやられたことをいじめっ子にそのままやり返した。制服を水浸しにされれば、すぐさま相手の制服を引き裂き着られない状態にした。上履きに虫が入れられていたら、相手の下駄箱に蛇を仕込んで噛ませた。相手は複数だったにも関わらず、だ。周到なのは、相手のいじめ現場をきっちり動画に撮っていたことだ。その動画をネットにばら撒くと脅し、相手の口を封じた。最後には相手が泣いて謝って挙句全員が転校していったそうだ。以降あいつは校内で関わってはならない危険人物として扱われるようになった。その悪評は俺のいた小学校まで聞こえてくるほどだった。ただ一つ注意が必要なのは、あいつはいじめっ子に対して一切関心がないという点だ。あいつは単に自分のものに手を出した愚か者を制裁を加えたに過ぎない。現に、当時の彼女はクラスメイトの名前や顔をちっとも覚えてなかった。あの様子だと、いじめっ子すら個体認識しているかどうか怪しい。何年か経ってから、なぜすぐにやり返せたのか、仕返しが怖くなかったのか、と尋ねてみたことがある。するとあいつはきょとんと心底不思議そうな顔をして、

 「それが一番めんどくさくないから。誰ににされたかとか忘れちゃうし。目印、つけとこうと思ってさ。ああすれば二度と関わって来ないじゃない」

 そしてその後、「同年代の奴らの顔って全部同じに見える」とかどこぞの老人みたいなことをほざいていた。絶対覚える気がないだけだろ。あの時の気分は一生忘れない。あいつと俺のみている景色がどれだけ違うか思い知らされた瞬間だった。ちなみにきょとんとした顔は珍しく純粋そうで少女らしく見えた。まあ、そう見えるだけというのが本当に凶悪なのだが。

 


***

 

アキラの呪い(6)へとつづく。

 

 

次話はこちら。

 

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