KUROMIMIには本が足りない。

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活字がないとダメ系ヲタク。小説・音楽・詩・ときどき映画。自作の小説も書いてます。

小説「海のなか」まとめ3

 

 

 

どうも。クロミミです。

さてこのまとめ記事もとうとう三回目。

先日17回目の更新をいたしました連載小説「海のなか」。読んでる人がいるのないないのかもよくわからんが、いると信じて小説の内容を今回もざっとまとめてみたいと思います。

 

てか、更新のたびに文字数の違いエグくてごめんなさい。前回更新は特に多くなってしまって気がついたら6000字近かった。だって話の区切りがなかったんだもんよ。出来るだけ1500から2000をひとつの回として更新したいものよと思っておる次第。

 

キャラクター解説については前回のまとめ2で詳しく行なっておりますので、そちらをご参照ください。

 

 

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今回は「海のなか」の13から17をざっくりまとめつつ、振り返りたいと思います。

 

海のなか(13

 

12から引き続き、夜の海辺の船着場にて。一馬と愛花はともに時間を過ごしていた。

鋭く核心を突く一馬の問いに対する愛花の答えとは!?

 

 

海のなか(14

 

ここから第六章。

103日の夕凪の日記より。

最近はもっぱらあおと過ごしている様子の夕凪。しかし、そんな彼女の心には彼女自身すら予期せぬある変化が訪れていた。

 

 

海のなか(15

 

ところ変わって高校の文化祭当日。開会式の最中、陵はいろいろなことを思い巡らせているけれど

 

 

海のなか(16

 

文化祭開会式直後。

いきなり愛花にメイクされてしまう沙也。戸惑いながらも沙也は、何故か愛花のことが憎めない。

 

 

海のなか(17

 

人混みをかき分けて道ゆく陵。彼は沙也のいる2A組の喫茶店をめざしていた。たどり着いた先で陵はある人物の変化を目にして

 

 

 

私としては、かなり17とか頭を悩ませながら書きました。結構今後の進行に大切な心の動きとかをめっちゃ練った気がします。(ま、全部の回に言えるけども)

 

小説書いてて思うのは、どこまで描くかが難しいってこと。てか、書いててあ、お前そんな性格やったの!ってなることもしばしば。だからこそ面白いんだけどね。

 

物語自体は今やっと3分の1終わり頃に差し掛かろうかというところ。起承転結の承に入ったところって感じかな。てなわけで、まだまだ続きます。多分ノートに書いてた頃より長くなるからね。

 

こないだざっくり字数計算してみたら、一回の更新が平均2000文字だとしても34千はいってるっぽい。小説が一冊大体78万文字らしいのであと倍ちょっと?いやーーおわんねーわこの話倍書いたくらいじゃ。予定ではあと6万文字くらいの手応え。

 

てなわけでまだまだ続きます。だって長編だし?気ながーにお待ちください。これからはもうちょい更新頻度上げたいと思ってます。

 

忘れたら、まとめ記事読んで思い出すのだよ、諸君。

 序盤がオムニバス形式だったのと比べて最近の中盤は少し繋がりつつあるからな。文化祭編始まったし。ぜひ三つのまとめをご活用ください。

 

それでは〜。

 

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小説・海のなか(17)

 

 

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前話はこちら。

 

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※※※

 

 こういうことは苦手だ。俺は再確認する様に噛み締めた。我ながら、とことん裏方気質というか。こういうことはきっと佐々木なんかに向いているに違いない。けれど、悔いてももう遅い。断りきれなかった俺が悪い。クラスメイトに少し抜けると伝えたら、この看板を押し付けられてしまった。

「ホットドッグ〜、ホットドッグはいかがですか〜2年B組のホットドッグ。中央広場にてやってまーす」

 お決まりの台詞を口にしつつ、看板を高々と掲げることも怠らない。我ながら健気だと思う。そうでも思わなきゃやってられるもんか。自分の生真面目さにややうんざりしつつ、宣伝文句を機械的に垂れ流す。

 正直、うちのホットドッグの売れ行きは芳しくない。マスタードやケチャップはわかるとして、だれだよチョコレートなんかかけようなんて言ったやつは。あんなうまいかどうかもわからない代物に金を払おうという奴の気が知れない。

 「ホットドッグ〜おいしいホットドッグ〜」

 人混みに投げやりな声が吸い込まれていく。

 もともと180センチ近くある身長に加え、こんな看板まで持っていたら、目立つのは当然だった。自然、猫背になってしまう。

 また見知らぬ女子と目が合った。慌てて笑みを取り繕うと、顔をそらす。気まずいことこの上ない。宣伝に歩き始めてから、もう何度かこういうことがあった。小さな囁きがすれ違う度に聞こえる。そんなに俺はどこかおかしかっただろうか。俺は頭を心持ち上向きにした。こうすれば、ほとんどの女子はつむじの集団でしかない。こんなことなら着ぐるみでも着たかった。そうすれば誰も俺だとはわからないだろうし。

 隣のクラスのくせにどうしてこう模擬店の配置が遠いんだ。隣でいいじゃないか。やっぱり昼間を避けていくべきだった。まあ、出来ないんだけど。入場チケットが必要だから、そこまで外部者は多くないはずだが、うちの学校は生徒だけでも700人以上いる。これだけごった返してもおかしくはなかった。今も生徒会メンバーの誰かが校内を巡回しているはずだ。俺が沙也のクラスを目指しているのも生徒会の仕事のためだった。

 各教室でいろいろな出し物が催されていた。プラネタリウム、お化け屋敷、カフェ、射撃……。中には図書委員会主催の古本市もある。今年もあるのか。まだチェックしていない。油断すると手が伸びそうになるのを抑えつつ、目的地を目指す。一度手をつけてしまえば、切り上げるのは容易ではないだろう。時間に遅れるわけにはいかない。足早に古本市を通り過ぎて、階段を上がっていく。2年A組は2階の端で、階段を上がってすぐのところに位置している。

 階段を上がり切ると、ようやく一息つけた。一階に比べて二階は人がまばらだ。きっと有志バンドを目当てにみんな階下へと降りて行ったに違いない。開いているドアから中の様子を伺うと、この喫茶店にもそこまで客はいなかった。おそらくピークの時間がまだ先なのだろう。

 「いらっしゃい。陵、どうしたの?」

 ウェイトレス姿の妹尾さんが近づいてくる。いつもながら目を引く容姿だ。彼女が一歩踏み出すたびに背中でポニーテールが揺れた。この子の前では気後れしてしまう。それは、大きな瞳がそうさせるのかもしれない。心の底まで覗かれてしまいそうな目をしているから。

 「沙也いるかな。生徒会の巡回当番でさ」

 俺は、手で促されるまま手近な椅子に腰掛けつつ言った。

 「ああ。サヤね。そういえば、そろそろシフト終わるんだったっけ。ちょっと待ってて呼んでくる。あ、そうだ」

 愛花が少しこちらに顔を寄せた。ちょっとドギマギしてしまう。

 「サヤ、可愛くなってるからね」

 突然囁かれてびくつく俺を置いて、彼女はさっさと厨房へ向かう。同級生との距離感ってこんなもんだっけか。いやいやそんなわけないだろう。自分の社交性のなさを改めて思い知らされていると、キッチンの出入り口からウェイターが現れた。

 「お客様、ご注文は?」

 その声には慇懃無礼という言葉がぴったりだ。

 そこには仏頂面の三つ編み少女が立っていた。お揃いのエプロンがヒラッと揺れるのが目に入った。普段の姿からかなり様変わりしていて少し自信がない。でも、この声を間違うほど俺の記憶力あやしいわけでもない。

 「沙也?」

 「陵に決めさせるといつまでもうだうだ悩みそうだったから、テキトーにコーヒー持ってきた。砂糖とミルクは?」

 たしかに俺は優柔不断だが、流石にムッとした。これ、絶対タダじゃないだろ。他の奴なら奢ってもらえる可能性を期待するかもしれないが、金にうるさい彼女に限ってあり得なかった。

 「あ、ミルクだけ」

 沙也はエプロンのポケットからコーヒーフレッシュをひとつ取り出すと、コロンと机に置いた。

 「じゃ、ごゆっくり。あと5分で上がるから待ってて」

 沙也はさっきから全く目を合わせようとしない。この場を早く去りたいと言わんばかりの素っ気なさだ。まあ、単に応対が雑とも言うが。

 「あ、うん。……なんか、今日顔違うね」

 すると、舌打ちでもしそうな歪んだ表情で幼なじみは俺を見下ろした。

 「……つーか、なんであんたわざわざこんなとこまで」

 「妹尾さんから聞いてないのか。生徒会の当番」

 「そんなもの愛花から聞かなくたってわかってるし。あと15分後でしょ。そうじゃなくて、予定じゃもうちょっと遅くくるはずだったじゃない」

 その声には何故か剣がある。

 「なんだよ、早く来ちゃわるいのか」

 すると、沙也は何やらボソボソ恨言のようなものを呟きつつ、さらに眼光を鋭くした。

 「とにかく、あと5分後!私は着替えてくるから!いい!?」

   叩きつけるように言って去っていこうとする沙也に

 「もったいない。似合ってんじゃん。そのまま行けば?」

 すると沙也は鬼の形相で振り返った。せっかくメイクしても形なしと思えるほどの表情だ。

 「行くわけないでしょ?!会長にでも見られたら面倒くさいことこの上ないに決まってる」

 「ああ。あいつ喜んで写メ撮りそう」

 想像しただけでちょっと面白くて笑える。実際に起こったら厄介ごとでしかないんだろうけど。

 「もう少し考えてモノを言いなさいよね」

 「すいませんでした。あ、そうだ。沙也。夕凪、見なかった?」

 「え、なんかあったの?」

 「それが、このあとシフト入ってんのにいなくてさ」

 「ふうん。…見てないな」

 「ならいいや」

 実際、夕凪がいないからと言ってさほど困るわけでもなかった。準備期間中ほとんど居なかったのだから、当てにされるはずもない。シフトもほぼ居ない前提で組まれている。そんな空気を感じるたび、なんだか胸がざわついてしまう。たしかに夕凪はいるはずなのに。いつのまにか居なかったことになってしまうような、そんな予感。そう。俺は自分の気持ち悪さを少しでもマシにしたいだけだ。

 キッチンスペースへと去っていく沙也の後ろ姿を見ながら、コーヒーを口に含む。微妙に薄くてお世辞にも旨いとは言えない。家で淹れたインスタントコーヒーと同じ味がする。もう一口啜りながら、もしかしたらメーカーまで被ってるかもしれないな。などと推理しつつ的外れな視点で味を楽しんだ。ミルクをもらったが無駄になりそうだ。これならストレートの方がマシだ。

 それにしても、沙也は2年になってから少し変わったみたいだ。今まではなにがあってもあんな格好しなかっただろう。俺みたいなやつと違って沙也はこういうお祭りごとを積極的に楽しめるタイプだった。ぱっと見ではそう思われないらしいけど。最近まで自分のミーハーさを認めようとしなかったのに。何があったか知らないが、今年に入って漸く認める気になったらしい。きっかけが何にせよ、いい傾向だ。

 するとその時、近くから声がした。

 「うちのコーヒーのお味はいかが?」

 いつの間にか、妹尾さんが傍らに立っていた。いつの間にか制服姿に戻っている。

 「おいしいよ。これっていくら?」

 「150円。嘘つかなくていいよ。どーせインスタントだしさ。それだけじゃ味気ないでしょ。これあげる」

 彼女は手にしていた小皿を俺の前に置いた。小皿の上にはこんがり焼けたスコーンが鎮座している。横にはご丁寧にクリームまで添えられていた。

 「え?俺頼んでないよ」

 すると彼女は微笑を浮かべつつ

 「大丈夫。これ失敗作。余らせてもどーせあたしか沙也が持って帰るだけだからさ。タダだよ」

 たしかにそう言われてみれば、確かに少し形が歪だったけれど、それでも十分美味そうだ。

 「本当にいいの?」

 「いいのいいの。あ、味は保証するわ。なんたってサヤが作ったし。あたしも食べたし」

 そう言って妹尾さんは心持ち胸を張って、しししっと変わった笑い声を立てた。

 「ん?なんで沙也が作ったら保証になるのさ」

 「そりゃ、料理得意だからでしょ。あの子お昼手作りじゃん。あたしよく分けてもらうけどおいしいよ。…まさか、知らなかった?」

 少し呆れたように彼女は言った。

 「うん……全然知らなかったみたいだ」

 「そういえばさ、沙也、どうだった?」

 少し身を乗り出して彼女は言った。

 「ああ。いつもとは違った。意外だったよ。あいつがあんな格好するなんて」

 「ふふん。似合ってたでしょ」

 何故か誇らしげにする妹尾さんを見て、ピンときた。

 「もしかして、妹尾さんが?」

 見上げた顔がニヤッと笑う。

     「そっ。あたし、前から思ってたんだよね。サヤにはあーいう格好も似合うってさ」

 「ありがと。あいつ素直じゃないし頑固だからあんなだけど、多分めちゃめちゃ喜んでるから」

 言いながら厨房の方に目を向けると、制服姿の沙也が出てくるところだった。

 「ね、素直じゃないよね〜。ま、そこが可愛んだけどさ」

 「妹尾さんも制服、よく似合ってたよな。なんか、様になってるっていうか」

 「そう?照れるな〜」

 意外にも彼女はすこしはにかんで見せる。こう言うことは言われ慣れてるモノだと思っていた。

 「ほんとだよ。なんか慣れてる感じしたから、今までバイトとかしたことあるのかと思った」

 「あー、短期なら何度かね。でも、本格的には大学入ってからかなぁ」

 大学、という言葉に引っ掛かりを感じてしまうのはどうしようもないことだと思う。高校に入ってからずっとそうなのだから。今更意識するなと言われても無理がある。けれど、俺はまだ慣れていない。進学という事実の現実味に。

 「陵は、もちろん進学するんでしょ?」

 「まあ、多分……」

 「だよね。頭いいし」

 曖昧に答えてはみたものの、中身のあるものでは到底なかった。今まで自分の行く末についてきちんと考えたことなんて、多分ない。大学名を書く必要があるから偏差値を調べて適当なモノを書く。けれど大学で何かをしている自分についてはこれっぽっちも想像が湧かなかった。勉強をしているのだって、する必要があるからしているだけで、別にしたいわけではない。考えれば考えるほど自分の中に空いた穴を見つけて踏み入っていくような寒気を覚えた。

 「陵、お待たせ。行こう。遅くなるし」

 沙也に声を掛けられて初めて、ようやく俺は物思いから覚めた。いつの間に近くにいたんだろう。

 「サヤ、お疲れー」

 「そっちもお疲れ。じゃ、生徒会行ってくる。後で、出店どんなの出てたか教えて。後で回りたいからさ」

 「おっけー任せて。なんか良さげなのあったら買っとくわ。後で食べよ」

 「え、いいの?ありがと。じゃ、割り勘にしよ。選ぶの任せていい?」

 「任せて。勝手に決めていいんでしょ?」

 「愛花のが、美味しいもの詳しいじゃん」

 「オッケー」

 妹尾さんとの流れるような会話はあっという間に終わった。こういう会話に憧れるけど、俺にはきっとできない。きっと話し出す前に考えすぎてしまう。

 「それじゃ、行こうか」

 小銭を置いて立ち上がると、呼び止められた。

 「夕凪、あたしが探してみようか」

 妹尾さんからの突然の申し出に少し体が硬くなった。

 「え、いいの」

 「ま、お察しの通りこれからシフトないし。どうせお昼買いに店巡るからさ。そのついで」

 「そりゃ、すごくありがたいけど。ほんとに?」

 「うん。なんか心当たりとかあるの?」

 心当たりは一つしかなかった。あの場にいた夕凪が俺の中には焼き付いていた。初めてあの場所にいるのを目にしてからもう、一年近く経っている。あれから何度もあの場所で彼女を見た。奇妙な確信があった。きっと今日もあの場所にいると。

 「図書室にいると思う。大型本の棚の奥を左手に曲がった角の椅子……いや、でもやっぱり俺がいくよ。悪いしさ。急げば多分、間に合うだろ」

 「何言ってんの、生徒会の仕事はどうするの」

 妹尾さんはそう言って軽く俺の肩を叩いた。

 「がんばれ、副会長。で、夕凪のシフトは何時から?」

 「たしか、12時15分から」

 「後15分じゃん。急がなくちゃね。とにかく、あたしに任せなよ」

 その時初めて、俺は愛花と接した気がした。幼なじみの友人としてではなく。妹尾愛花その人と。

 「ありがと。今度なんか奢るよ」

 「期待しとく」

 愛花は強気な笑みを浮かべて、手を振った。

 


※※※

 

海のなか(18)へと続く。

 

海のなか(16)

 

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前話はこちら。

 

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※※※

 


「だめ、サヤ。まだ目は伏せてて!マスカラ失敗する」

 愛花がピシャリと言った。我ながら私も往生際が悪い。ここに座ってからもう、15分は経っている。愛花はなおも腰をかがめてマスカラを塗り重ねていた。メガネをとったせいで、全てが霞かかって見える。

 ああ。らしくないことをしている。

 まだ、わたしの身体の内では不安に心臓が暴れていた。

「ねえ、もう良くない?ほら、この後シフト入ってるしさぁ」

 いつもとは違う愛花の様子に戸惑いを隠せないまま、そうボヤくけど返事はない。なぜ私たちが空き教室でこっそりメイクなんかしているのかといえば、それは全て沙也の気まぐれのせいだった。わたしはただ、開会式の余韻も去らないうちにここに連れてこられただけ。ここにきて勢いよく引き戸を閉めると、振り向いて愛花は言った。

 「サヤ、メイクしてあげる」

 「え?誰が誰に」

 「あたしがサヤに」

 あの時の愛花には逆らいがたいものがあった。普段だったら言ったはずだ。「嫌だ」と。なぜ私は委ねてしまったのだろう。それだけがわからない。こんな芋くさい女子を飾り立てたところで、高が知れているだろうに。

 きっとこんなどうしようもない気分、愛花にはわからないだろう。昔からそうだった。ひらひらのスカートもたっぷりとしたフリルも甘いピンク色も輝くアクセサリーも。全てわたしには縁遠いものだ。だからこそ、それ以外のことには一切手を抜かなかった。だって、わたしにはそれしかないから。

 そばかすの目立つ肌も、ひとえの小さな目も浅黒い肌も。みんな昔から大嫌いだった。何より嫌いだったのはこの長く黒い髪だ。わたしの髪はずっと長いまま。それはどこかで女らしさを諦めきれない自分の証明だった。この髪は、わたしの弱さだ。

 「よしっ!できた」

 突然、そんな声で物思いから醒める。気がつくと、目の前には鏡があった。

 「どお?いいかんじにしあがったでしょ?言ったじゃん。あたしが似合わせてみせるって」

 手鏡の向こうでは、愛花が自信ありげに笑っている。鏡越しに目が合った。

 「……悪くないね」

 「でしょ?」

 「サヤはさ、カッコいいけど。そこがいいとこだけどさ。だからって、外見までそれに合わせることなくない?…最初から似合わないなんて、決めつけるのはもったいないって」

 まるで別人みたいな愛花の声がする。普段より、ずっと大人びて落ち着いた女の声。わたしはこの子のことを何にも知らないのかもしれない。

 「愛花ってさ…なんか、すごいね」

 「そうなんだよね。なのに誰も褒めてくんない。みんな目ぇ腐ってんね」

 「そろそろ行く?模擬店の様子も気になるし」

 私がそう言うと、愛花はどこかからかブラシを取り出した。

 「いや。ついでに髪の毛三つ編みにしよう。ハーフアップでもいいけど、どっちがいい?」

 見上げてみると、その目は真剣なままだ。なぜか、その様子に笑いが込み上げてくる。

 「いいよ。愛花の好きな方で」

 仕方がない。もうしばらく遊ばれてやろう。背をもたせかけると、古い椅子はギッと軋んで抗議した。

 


※※※

 

海のなか(17)へつづく。

 

 

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古本屋巡りな新年。

 

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こんにちわ。クロミミです。

新年あけましておめでとうございます。

今年も出来るだけ楽しさとやりがいに満ちた生活を送れればなーと思います。今年もいっぱい小説書いて、いっぱい本読みたいな。

 

今年の年末年始はジョジョと共にありました。

もちろん「岸辺露伴は動かない」のことです。

みなさんドラマご覧になりましたか。わたし、最高すぎて全話三回ずつ見たんですけど(暇かよ)

 

露伴先生ファンとしてはたまらんでしたな。(一番の推しは吉良ですが)高橋一生まじ演技神。他の俳優もやばかったし。高橋一生はカルテットの頃から大好きです。

 

本日はそろそろごろごろし尽くしたので、お外に出て古本屋に行きました。今日の釣果はこんな感じ。f:id:KUROMIMI:20210102150430j:image

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冒頭の「文学部唯野教授」も買いました。シャーロックホームズを買ったのは再リベンジを果たすため。なぜか私は今に至るまで本家シャーロックホームズを読めないでいるのだよ。ワトソンくん。がっつりの推理ものを攻略できない。なぜだろうか。カンバーバッチくん主演のドラマとかは大大大好きなんだがなぁ。

 

あとは、筒井康隆の「短編小説講義」、夢野久作の「少女地獄」、寺山修司の「地平線のパロール

本当はウィリアム・ギブスンとかも買いたかったけど状態がアレだったんで我慢しました。

 

写真二枚目は古本屋で売ってたブックカバー。かわいい。さっそく唯野教授を包んであげました。よしよし。

 

いまカフェでこれを書いてるんだが、さっき頼んだキャラメルラテが甘すぎずいい感じ。

母曰く、「唯野教授は真面目で人付き合いが苦手な岡田斗司夫」とのこと。

楽しみになってきやがった。

 

それでは、改めまして今年もよろしくお願いします。近日中にまた、小説・「海のなか」の続きを更新したいなって思ってます。

 

それでは〜。

 

 

小説・海のなか(15)

 

 

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前話はこちら。

 

 

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もう十月だと言うのに、体育館には熱気が充満していた。息苦しさにもがくように汗を拭う。壇上では生徒会長の佐々木が挨拶をしていた。ようやく今日がはじまる。準備作業の大変さを思うとそこから解放されることも相まって自然気持ちが高まった。

 佐々木はと言うと、何度も練習してきました。と言わんばかりの堂々たる顔つきで開会の挨拶をしていた。会場には名調子が響き渡り、一部の女子は熱心に耳を傾けている。本当はほんの10分ほど前に書き上げた原稿を読んでいるくせに。あいつは今日まで一文すら考えていなかった。ギリギリまで放置しておけるあの神経の太さは異常だと思う。しかも途中からは俺が作ったカンペを、無視して読んでいた。どうやったらあんな芸当ができるのか、皆目わからない。

 昨日までひたすら佐々木の尻拭いをしていた身としては、苦々しく思うのが自然なのだろう。けれどなぜだか、ちっともそんな気がしない。あいつはいい加減で迷惑な奴だけど、会長にしか出来ないことは絶対にやってくれるから。それに、あの抜き身さと奔放さにひっそりと憧れてしまう自分もいる。俺はああはなれない。あいつの持つ何もかもが、俺には持ち得ないものだ。

 きっと沙也がこんな俺の思いを知ったら、一言「いくじなし」と罵られてしまうのだろうけれど。それが俺なのだから仕方がない、とも思う。それに、「要領のいい奴を嫌う自分」を俺はどうしても好きになれない。周りだってそう言う振る舞いを俺に求めてるんじゃないか?

 よく「いい人」だと言われる。けど、俺自身は自分が「いい人」かどうかわからない。ただ周りに望まれるように行動してきただけだから。そこに俺の意思はない。いつもどこかでこの空虚さを埋められたらと願う。もうずっと前から。でも「何か」はいつまでも見つからない。穴は空いたまま。今までも、そしてきっとこれからも。俺は俺を知らないまま、生きていく。

 気がつくと、視線は自分のクラスのあたりを漂っていた。無意識に夕凪を探してしまう自分に少し驚く。彼女は最近学校を休みがちだった。その傾向は海で溺れたあの日からずっと続いている。だから気になるのだ、と言い切れないものが腹の中で渦巻いている。嵐の日に見た彼女の姿が焼き付いて離れないからだろうか。それとももっと前に?そんな風に辿っていくと原因はいくらでもありそうで、結論を出すことは容易ではなかった。

 夕凪はすぐに見つけられた。列の半ばで体育座りをして俯いている。色素の薄い長い髪の毛が帷のように垂れ下がり、ここからでは表情を読めない。もしかしたら眠っているのかもしれない。ともかく、今日は休まずに来れたようだ。自然、ほっと息が漏れた。一方でそんな些細なことで胸を撫で下ろしている自分にも違和感を覚えてしまう。

 夕凪。あの幼なじみに対してだけ、どうしてもうまくやれない。「いい人」でいられない。彼女が俺に何も望まないから。だから俺は俺の形がわからなくなる。今まで幼なじみの欲求がこちらに向くことはなかった。彼女と出会った幼い時からずっと。つい最近まで、夕凪には欲望が欠けていると思っていた。しかし、それは否定されてしまった。あの嵐の日に。

 俺はきっと知りたいのだろう。彼女の望むものはなんなのか。彼女の欲望の行く末を。俺もまた自分の欲望に振り回されているのだ。これは果たして好奇心と呼ぶべきものなんだろうか。

 夕凪を盗み見ていると、不意に痛みを感じた。隣に立つ沙也が肘で突いている。

 「副会長!早く!はやく!!」

 いつのまにか挨拶は終わっている。壇上では生徒会長が俺を待っていた。この学校では伝統的に会長と副会長が一緒に開会宣言をする慣わしだ。

階段を上がっていくと、佐々木がそっと耳打ちした。

 「おいおい〜珍しいじゃん?りょーちゃんがぼっとしてるなんてさ。しっかりしてくれよ〜?副会長。頼りにしてるんだから」

「お前はもう少し働け」

 佐々木がむかつく仕草で肩をすくめると、被せるように司会の声がした。

 「次は、会長・副会長による開会宣言です。よろしくお願いします」

 視線を下に下げると、沙也が睨んでいる。「さっさとして」と唇が動く。

 わかってるよ。まったく。

 「それでは、令和○年度 文化祭の開催をここに宣言します!」

 ハウリングとともに宣言が響いた。

さあ。今日が始まる。面倒な一日が。

 


✳︎✳︎✳︎

 

海のなか(16)へつづく

 

次話はこちら。

 

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小説・海のなか(14)

 



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前話はこちら。

 

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第六章  「萌芽」

 


『10月3日  木曜日

今夜はなんだか落ち着かなくて、彼に会いに家を抜け出した。このところは、毎晩会いに行っている。』

 


 夜空を引っ掻いたような頼りない三日月が浮かんでいた。今にも消えそうな感じ。まるで、青みたいだ。

 だからわたしは会いに行くのかもしれない。彼が今日もあの場所にいるか、確かめるために。そんな自分に気がつくたび、気持がわるい。わたしもあの人の娘なのだと実感してしまって。もう何も好きにはなりたくないのに。どうしようもなく心が動いてしまう。

 水底を漂う海流がわたしの髪の毛を巻き上げて散らしていった。動きがゆっくりと伝わってくる。その感触だけがわたしを現実に縫いとめている。完璧な夢の中でわたしだけが調和を乱している。

  「なにを見ているの?」

 美しい少年が尋ねた。彼にはきっとわからない。不完全なわたしの気持ちなど。心の片隅で密かにそう嘆く一方でわたしは彼がそうあるように望んでもいた。憧れれば憧れるほどその気持ちだけは尊いものになるような気がして。眩しい何かが自分を染め替えてしまうような。そんな心地。

 「この場所は暗いね。月も見えない」

 「月が好きなの?」

 「好き」という言葉にまた心が揺れる。陶酔的で曖昧な気分が一気に拭い去られていくような不快感。ああ。嫌だ。

 「違う…!」

 わたしはあの人みたいにはならない。わたしは誰のことも嫌いにならない好きにならない。……愛さない。

気持ち悪い!気持ち悪い!大嫌いだ。

 「…そう。ごめんね。もうきかない」

青の声が遠くに聞こえた。

喉の奥に石を呑んでしまったみたいに呼吸が荒くなる。青は優しい。だから踏み込んでこない。彼には、彼だけにはわたしをわかって欲しいと思っているはずなのに。誰よりも彼には理解してほしくない。

 最近よく思う。青に出会った頃に戻りたいと。あの頃は彼の優しさに溺れているだけで幸せだった。わたしがわたしでさえなければ、こんな不安も覚えずに済んだのに。

今日、分かったことがある。

わたしがこんなにも不安になるのは、青の優しさに理由がないから。いつも

「青はなぜ、わたしに優しくしてくれるの」

「青とわたしはいつ始めて出会ったの」

 そんな疑問が口をついて出そうになる。

 けれど、問うことはできない。

 出会った時からわかっていた。

 問う時は、終わる時だと。

 もしかしたら、青自身でさえ知らない問いの答えを知るとき、この心地よさも共に去るだろう。そんなことには耐えられない。だから。

 わたしはこの先、どうすべきだろう。どうしたいのだろう。

 この場所に来れば幸せになれるはずだったのに。もう、満たされない。青はもうわたしを救えない。青と出会わなければこんな孤独を知ることもなかっただろうに。

 耳鳴りがする。水泡が弾けて囁いている。お前と青は別物だと。わかっている。わかっていた。この痛みは夜に沈むにつれて日に日に深化するばかりだ。それなのにきっと、わたしは明日もここを訪れてしまうだろう。青に救いを求めて。彼はきっとわたしを欲しがってはくれないのに。

 


ああ。どうすればいい。

 

※※※

 

 

小説・海のなか(15)へと続く。

 

次話はこちら。

 

 

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ただ自分らしくありたいだけなのに。

私はキラキラしたものが好きだ。

 

昔からそうだった。

キラキラしたアクセサリーを見ていると日々の悩みがどうでもよくなる。幸せになれるのだ。コスメもメイクも好きだし、おしゃれすること全般が大好きだ。愛していると言ってもいい。

 

こういう私の嗜好を他人が知ると、大体

女子だねぇ。

とか

わたしにはそんなふうにできないな

 

なんて言われる。そしてそのたび居心地の悪さを感じるのだ。

 

わたしの大好きなことたちがただ、

 

「世間的な女の子像にあてはまる」

 

というだけの理由で評価の対象に登るというのがなんとも勘に触る。

わたしは好きだからしているだけなのに。

わたしは自分のためにしているのに。

 

わたしは決して女の子らしい中身ではない。

髪の毛だってベリーショートだし、粗雑で気が強い。

それなのに大好きなものたちは

勝手にやってきた人々に勝手に批評されてしまう。

 

かつてわたしはわたしのためだけにメイクしていたので、それはもうすごい顔になっていた。

(らしい)

 

ある時、見かねた母がこんなふうに言った。

 

「あんたの顔はキャンバスじゃないんよ」

 

は?何言ってんだこいつ。ほっとけ。

 

数年前にそんなふうに思ったわたしもいつしか仕事をはじめ、薄くメイクする様になった。

 

外からの視線に屈したのである。

 

あれから随分と生きやすくなった。もうだれもわたしの見た目に何か言うことはない。

 

けれどどこか寂しさを感じる。

 

わたしはわたしらしさを売り渡してしまったのではないかと。

 

わたしにとって譲れないものが多すぎる。

 

それはただ、我儘だと片付けていいことなんだろうか。

 

わたしにはまだ 答えが出せない。