KUROMIMIには本が足りない。

KUROMIMIには本が足りない。

活字がないとダメ系ヲタク。小説・音楽・詩・ときどき映画。自作の小説も書いてます。

小説・海のなか(1)

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登場人物名にミスを発見したため、再投稿させていただきます。

 

 

第零話   プロローグ

 

 

 

あれからもう随分と永いあいだここにいるような気がしている。

いまが一体いつなのか、もうわからない。

それほど時間が経ったのだ。あの時から。すべてを曖昧にさせるほどの永い、永い時が。

わからないことだらけだ。

私は誰なのか。

私の名前はなにか。

私を知っている人はいるのか。

そして、私は生きているのか。

ここに来る前に私は多くのものを失ったように思う。失ったものについて考えるたび奇妙で空虚な喪失感がどこかで渦を巻く。でも、それだけだ。この胸には悲しみも喜びも苦しさも、何もない。

ただ確かなことはひとりの少年がこの場にいたということだけだ。

わたしはもう彼の表情を思い出すことができない。

ただ、これだけはわかる。

彼は私を残して消えてしまったのだ。

ここには誰もいない。名も知らぬ何かが漂い、出口を求めてさまよっている。

もしも。…時折考えることがある。

 

もしも、誰かが来てくれたなら

そのこは私の終わりになってくれるだろうか。

次の私になってくれるだろうか。

いつかのわたしのように。

 


わたしはそのときをずっと待っている。時間の止まったこの場所で。

ずっとずっと待ち続けている。

 

***

 

第一章  海の中

 


『はやくきて、夕凪』

  高校二年の夏のある朝、不思議な声が感覚を撫でていった。

  瞬間、すべてを忘れた。これから海に行くことも、となりの友人の存在も、いま駅のホームに立っていることさえも。

   妖しく、美しい声だった。一度聞いたら忘れられない危うい響きが、まだ耳の奥ではリフレインしていた。

『まもなく、列車が参ります。危ないですから黄色い点字ブロックの内側まで下がってお待ちください』

  唐突に澄ました文句が現実感いっぱいに耳に飛び込んできた。駆け込んでくる電車の列に不思議な残響が連れ去られていく。あっと声が出るほどあっけなかった。

  なにかを忘れているような気がした。罪悪感がちくりとする。とても大切なことだったような気がしたのに。不意に隣を見ると愛花と沙也が陵を挟んで話していた。今日も何にもない普通の日なんだろう、と安心している自分がいる。

  「なあ、夕凪はどう思う?」

陵がくるっとこちらを振り向き尋ねた。自分の顔のこわばりを感じる。なんの話をしていたのか、全然分からなかった。そもそも会話に加わっているという意識すらなかったのだから、当然といえば当然だった。悪い予感がじわじわと這い上がってくる。今日だけはうまくやろうと決めたのに。

  慌ててわたしは口を開いた。

「陵、ごめ…」

  大きな音を立てて電車が滑り込む。わたしの小さな声は散り散りになってしまって、言った本人ですら、発声したかどうかもおぼつかない。そっと伏し目がちに様子を伺うと、誰もこちらを見てなどいなかった。どうやら答える必要は無くなったようだ。

  すっと視線を下げる。小さなひとつひとつに傷ついている自分に嫌気が差した。別にいじめられたわけでも意地悪されたわけでもない。ただわたしが重要でないだけ。いつも、どんな時でも。

 電車が起こした強い風に煽られて、麦わら帽子が飛んでいきそうになる。慌ててぎゅっとつばを下げるととたんに視野が狭くなった。

「夕凪」

名前を呼ばれて顔を上げると陵が心配そうな面持ちで見つめていた。

「電車出るよ、早く」

   泣いているように見えただろうか。そっと目元に触れてみる。しかし涙の気配もなく乾いていた。そうしてそうか、と密かに結論した。

きっと、すべてを諦めているから濡れないのだ。

わたしは薄く苦笑して電車のステップを踏んだ。

『ドアが閉まります。ご注意ください。』

間延びしたアナウンスが後を追って聞こえる。

 


***

 


列車内はがらんとしていた。日差しだけがさんさんとさして空白を強調しているみたいだ。なんだかさみしい。まるで言い訳しているみたいだ。適当な席に腰を降ろすと、愛花と紗也はまた陵を囲んで話しはじめた。今度は好きなバンドのハナシらしい。愛花が嬉々として熱弁している。わたしも今回はちゃんと話を聞いておこうと耳を傾けていたけれど、ふと気づく。そういえば、わたしはあんまり音楽を聴かない。この話題に入り込むのはむずかしい気がする。異国語のような三人の会話が少し遠くで聞こえた。いつもわたしはこうだ。みんなの時間とわたしの時間は速さが違う。一人だけ停滞している。そして、わたしを置き去りにしていることにすら、きっとみんな気がついていない。

 楽しそうな三人を横目にふと思う。そういえば、なぜ私はここにいるのだろう。陵だ。陵がわたしを誘った。いつもそういう気の使い方をするのは決まって陵だった。今日この場に来たことをわたしははやくも後悔し始めていた。ひどく自分を滑稽に感じる。誰もわたしを疎む素振りすら見せないことが、余計にわたしを辛くさせた。わたしを今この場につなぎ止めているのは陵の誘い。それだけだった。

『夕凪もいくだろ?』

   そう言って笑った陵の顔が過ぎる。口に苦いものが広がる。何度もぶり返すようなあの味。わたしはこの迷路からもう抜け出せないのかもしれない。麻痺してしまっているから。窓にだらしなく頭をもたせかけたまま、そんなことばかりを考え続けていた。

電車の中にもたまに視線を向けてみるけれど、誰とも目が合わない。お互いに目をそらし合って俯いている。みんなひとりぼっちみたいに見える。それを眺めている私もなんだか粘土でできた人形みたいににぶい。意識も宙に浮いたままひどく曖昧だった。窓から見える風景はあまりにも単調で眠くなった。電車の振動がゆりかごのようにわたしをあやす。電車がひとつ身体を揺するたびに、わたしの意識は曖昧になってくる。柔らかな繭に包まれて、わたしの瞼は少しずつ閉ざされる。

——ああ、みんな水着の話とかしてくれないかな。そうすればわたしだって話せるのに。

膝の上に置いた堅いビニールバックを抱きしめると、情けない音できゅうきゅう啼いた。いつの間にか、窓からは青い海が見えていた。澄んだ青は見つめていると、吸い込まれそうなほど深い色だ。波の表面は滑らかで美しい絹のように見えた。

「あっ海!」

「わあっ、きれい!」                       

愛花と紗也が席から立ち上がって窓に張り付く。はしゃいだ声が虚ろな車内に弾ける。照りつける日差しが白く目に突き刺さって、わたしは思わず目をほそめた。

        ***

 水着に着替えてみると、なんだか急に恥ずかしくなってきてしまった。おなかのあたりがすうすうして落ち着かない。

となりで堂々としている紗也と愛花がうらめしく思える。ほんとうに海に来るのはいつぶりだろう。少なくとも中学校に上がるよりも前のはずだ。急に、あの頃のわたしの形が遠くなって分からなくなってしまう。あのときのわたしと今のわたしは別物になってしまったのだろうか。知らず知らずのうちにそんなことを考えている自分に驚く。わたしは一体なにが欲しくてこんなことを考えたのだろう。今さら昔のことなんか考えたりして。いままで考えたこともなかったのに。なんだかしっくりこない。自分以外の誰かが『わたし』になりすましているみたいに。

「夕凪! 」

 気がつくと三人の背中は遠くにあった。愛花が頭上にバレーボールを掲げているのが小さくみえた。みんな笑っている。それだけで許された気がした。

「いまいく」 

   駆け寄っていくと既にバレーボールは始まっていた。宙を舞うボールにわたしはおびえてしまう。昔から運動が苦手だった。ましてやバレーボールなんて今までただの一度もボールをまともに上げられた例しがない。いつもわたしのボールは地面に落ちるか、あさっての方向に飛んでいく。足は地面に張り付いたみたいに動かないし、手は冷えて感覚が鈍い。楽しそうに遊ぶ三人のことが、まるで別の世界の人みたいに遠く感じられる。心がみるみる惨めな色で塗り込められていく。ああ、どうしようもない。

「夕凪」

  呼ばれて顔を上げると、ひときわ高いボールが白い太陽に呑みこまれながらわたしめがけて落ちてきていた。遮るように、空に手をかざす。けれどボールはそんなのお構いなしにすり抜けてわたしの額にぶつかり、海の方へと跳ねていった。

「っあ! 」

   痛みで涙が滲む。泣いていると思われるのは嫌だった。俯いて素早く踵を返すと、海に着水したボールを取りに走る。早くしないと、どんどん沖に流されてしまう。

「だいじょうぶー?」

みんなの声が背中に追いつく。振り払うように無理矢理明るい声で返事をした。

「平気、平気!」

もっと速く走らなきゃ。気がつかれないように。一目散に海に入るとツン、と潮の香りがする。顔についた水滴が容赦なく塩辛かった。喉が痛み始める。息がうまくできない。身体もいうことを聞かないみたいだ。

  いや、本当はちがう。ーーー私自身が拒絶しているのだ。あの場に戻ることを。その時、身体の芯が冷えていくのを感じた。なぜ、戻らなければいけないの。戻っても与えられるのは苦い蜜ばかりだ。その時、左足を強い力で誰かが摑んだ。

「えっ?」

「何か」から逃れようと足をばたつかせても、びくともしない。どんどん海の中に引きずり込んでいく。

「たすけて」

    息苦しい小さな声が漏れる。同時に視界がエメラルドグリーン一色に染まる。美しさにくらくらと目眩がした。息を吐き出すと大きくて緩慢な水泡が生まれて、胸がきりきりと苦しくなった。泡の行く末をぼんやりと目で追いながら、頭の片隅で思う。これで自由になれるのだろうか。いっそその方がいいのかもしれない。だって今何も、誰も浮かんでこない。誰にも会いたくない。何も欲しくない。あの世界にあるものは何も。

    だんだんと目の前が暗くなっていく。わたしはその瞬間全てをあきらめた。それきり意識は途絶えた。

 


***

 


   どこかからかやってきた潮の流れがわたしの頬を撫でた。曖昧な意識でも海中が穏やかなのが分かった。ああ、この場所はわたしを拒絶しない。すべてから逃れられる。自分のゆっくりとした呼吸を感じる。呼吸?わたしは海で溺れたはずなのに。疑問がわたしを少しずつ覚醒させた。身体の中心から徐々に感覚が広がっていく。誰かがわたしの髪を優しく梳いている。慈しむような手。不思議と怖いとは思わなかった。それどころか、手から与えられる感触にもっと身を委ねていたいとさえ思った。そう。わたしはどこかでこの感覚を知っている。小さい頃だ。それも、こんな場所でじゃない。もっと身近な。でもだめだ、思い出せない。

     手が優しければ優しいほど切なくなった。こんな安堵は地上に戻れば二度と手に入らないだろう。瞬間大きく心臓がはねた。胸をつく懐かしさがこみ上げる。いや、これは懐かしさなんて生易しいものじゃない。渇望だ。内から突き上げる感情に思わず目を見開き、身体を起こした。すると、すぐ近くから少年のような声がした。

「やっと起きた。気分はどう」

    声のする方を振り向くと、頭がひどく痛んだ。視界が歪み、ぶれる。わたしは呻くように訴えた。

「あたま・・・いたい」

「そうか。久しぶりだから身体が馴れていないのかもしれない。大丈夫。そのうち馴れる」

 見知らぬ少年はいいながら、そっとわたしの頭を撫でる。その手の感触には覚えがあった。少年はほんの少し髪に触れてすぐに手を離してしまう。まるで何かを恐れているようだ。壊れ物を扱うような恐れが僅かに触れた手から伝わってきた。ややあって、わたしは尋ねる。

「・・・髪を触っていたのはあなた?」

「ああ」

   少年は返事すると、何かもの言いたげな目をした。視線がぶつかる。その時初めてわたしは彼の姿を正面から見た。決して華やかではないが、目を惹く憂いを帯びた端整な顔立ちをしている。彼の白い肌が暗い海の中で浮き上がって見えた。まるで光を放っているようだ。少年の艶のある黒髪がより一層肌を白く見せている。こんな人間を今まで目にしたことがなかった。そしてその特異な印象は、単に優れた容姿のみに原因するわけではなさそうだということが一目で見てとれた。わたしは固唾を呑んで、目の前の人物を食い入るように見つめた。少年はわたしの視線に気がついているのかいないのか、微笑みかけた。

「夕凪、君はちゃんと生きてる。ただ、ここで息ができるように少し仕掛けはしたけれどね」

「・・・あなたは誰?」

 こんなに何かを知りたいと思ったのは初めてかもしれない、と心の中で思った。そうだ、こんな場所に人がいるはずがない。ただの人が。それに彼は人というには奇妙で、そして美しすぎた。急に怖くなった。この場所で息ができるようになったわたしもまた「ただの人間」ではないのか。指先が急に冷えてたまらなくなった。

「僕は青。ここにずっと棲んでいる。夕凪、安心するといい。君は人間だよ。どうしようもなくね」

 わたしの心を読んだような言葉に息が詰まった。見透かされている。

   青に「夕凪」と呼ばれるたび、どこか喜んでいる自分がいる。目覚める間際の感情が何の前触れもなく甦る。まるでずっと欲しかったものが今目の前にある、とでもいうように。わからない。わたしは知らなさすぎる。さまざまなことを。

「そういえば、わたしの名前・・・」

「ああ。君のことは昔から知っている。君が幼い頃から」

青はわたしと同い年くらいに見えるのに、その目はひどく大人びていてアンバランスだった。彼は慈しむように言った。

「・・・・・・大きくなったね、夕凪」

 また、ちりちりと理解できない感情が胸を焦がす。胸の上でぎゅっと片手を握り締めてわたしはいった。

「ここは、海の中なの?」

「そうだよ」

「帰らなきゃ」

 自分の言葉が空々しく耳に響く。本当にそうだろうか。あの時あんなにも簡単に全てを手放したのに。なぜ今になって。あの世界もわたしを必要としていないのに。出口の見えない問答がわたしを支配する。地上にわたしの心を繋ぎ止めるものはほとんどなかった。今会いたい人がいない。両親とは疎遠だし、心から友達と呼べる存在もいなかった。それなのに今、身体いっぱいの喪失感で息が苦しいほどだった。身体中で心臓の音を聞きながら、わたしは理解する。本当に全てを失ったのだと。あそこしかわたしの帰る場所はない。希薄な関係性とちっぽけな世界がわたしの全てだった。そして、今度はそれすら失ったのだ。

 「ふううっ」

 無様な声と一緒に涙が溢れる。けれど、すぐにもっと濃い塩水に紛れてわからなくなってしまう。わたしの悲しみを逃す手立てはなかった。海の中で泣くことはできない。だから、苦しみが癒える事もきっとない。わたしの方を一瞥すると、青はつぶやくような声で言った。

「…帰って欲しくないな。だってずっと待っていたんだからね」

「待っていた」という言葉にギクリとする。喜びと恐れのようなものがない交ぜになって押し寄せる。足を掴んで引きずりこまれた時の恐怖が何処かからか滲んできた。わたしを溺れさせたのはこの青という少年なのではないか。不意に疑惑が頭をもたげた。なぜこの可能性を一度も考えなかったのだろう。いや、考えたくなかったのだろうか。もう、恐怖と喜びの境目がわからない。

「君が初めてこの場所に足を踏み入れた瞬間から、僕は君を感じていた」

   青の声色は穏やかだった。しかし、その背後には押し込められた隠しきれない思いの気配が漂っていた。

「どのくらい?」

    別に、問いの答えが知りたいわけではなかった。未知の感触に腹の底が疼いた。本当は怖くて仕方がないのに、どうしようもなく引き寄せられる。青のガラス玉のような瞳にわたしが映り込んでいた。もう一度繰り返す。今度はゆっくりと噛みしめるように。

「どのくらい、まっていたの」

  その時初めて青の笑みが溶けて消えた。真顔になった彼の顔は作り物めいていて、まるで精緻な人形のようだった。彼の赤い唇が滑らかに動く。

「千年」

「千年まっていた」

「僕は千年の孤独に耐えて、君を待っていた」

   それきり青は何も言わなかった。青の存在は知らぬ間に消える泡のように儚かった。それなのになぜか彼の言葉はわたしの心からいつまでも消え去らず残り続けた。もしも、青が想像もつかないほど昔からここにいるなら。彼の時が止まってしまっても何もおかしくない気がした。子供が子供のまま永い時を生きてきたかのように、青の印象はちぐはぐだった。

 ああ、どんどん正常がわからなくなる。わたしはいま、自分で考えているのか。それとも、考えさせられているのか。

「嘘だよ」

唐突に青は言った。嘆くような微笑みを浮かべている。

「え」

「此処には朝も夜もないから。時間の流れがわからない」

  そして、青は切ない表情をした。唇は微笑みを浮かべていたが、目元には憂いと遠い昔への郷愁が影を落としていた。青の言葉をめちゃくちゃに否定したくなる。そんなわけがない。どうやらわたしは想像以上に、彼の言葉を信じたがっていた。皮肉な笑みが口の端に漏れる。きっとわたしは「だれか」に待っていて欲しかったのだ。会いたい人がいないから。今までそんなこと考えもしなかったのに。それだけのことでわたしの心には苦いものが溢れた。つづく青の声はわたしの中の汚濁をかき消すように透き通って聞こえた。

「でも、これだけは信じて」

「僕はずっと君を待っていたんだ。気の遠くなるような永い時間」

    耳元で海の渦巻く音がする。わたしの安息が終わりを告げようとしていた。乞うような気持ちで少しでも長く今が続けばいいと本気で願ってしまう。こんな都合のいいこと、長くつづくはずがないのに。

「僕は此処で待っている」

「また会えるのをたのしみにしているよ。夕凪」

   どんどん耳鳴りが激しくなっていく。それに合わせて心臓が自分のものではないように乱暴に早鐘をうつ。

   目の前の青の姿が見る影もなく歪み、マーブル模様になる。青の言葉ばかりが幾度も耳の奥で響いた。

『まっていた』

    頭のどこかがキリキリと絞り上げられるように痛む。もう、何も見えない。耳は青の言葉を再生し続ける。

『まっていた』

  その言葉を最後にわたしの意識は再び途切れた。

   次に目が覚めると、目の前には病院の白い天井があった。わたしは海に行った日の二日後、浜に打ち上げられているところを救助隊に保護されたそうだ。目覚めた時には、溺れてから四日が経過していた。周りはまるでわたしが生き返ったかのように扱った。大人たちは口々に何があったのか聞きたがった。けれどわたしは決して青のことを誰かに話そうとはしなかった。話したところできっと信じられないだろう。わたし自身あの体験を一種夢のように感じていた。

   それでも、あれは本当にあったことだ。それを証し立てるように、事件以来わたしの左足には薄い青色の痣が残った。この痣だけがわたしと青とを結んでいる。

 あざに触れるたび、青の声が蘇る。

『千年』

『千年まっていた』

それはまるで、絶え間ない誘いのように。

 

 

 

『海のなか  2』へつづく。

 

***

 

 

次話はこちら。

 

kuromimi.hatenablog.com

 

 

 

 

他にもこんな小説を書いています。

 

kuromimi.hatenablog.com

kuromimi.hatenablog.com

 

 

小説・「海のなか」まとめ5

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※当記事はかなり前に作成した物ですが、投稿を失念しておりました。後日、小説・「海のなか」(32)とまとめ記事その6を投稿予定ですので、そちらも併せてご覧下さい。

 

どうも。クロミミです。

最近仕事のキツさが尋常じゃなくてほぼほぼ休日はお布団と合体してます。なんだろう、直立二足歩行するのがもう疲れるねん。

最近の嬉しかったことなんか、お昼のおにぎりにとろろ昆布混ぜたらめちゃうま、ということを発見したことくらいだもんな。(マジでうまいよ。クロミミは万年金欠つき、滅多に買い食いしません)

で、仕事きついから小説描けないかと思いきやそうでもなかったりする。むしろ仕事楽な時よりかけるんだよね。

あれよ、テスト週間に限って執筆が捗るのと同じ理屈よ。学生時代から変わってないのね。

てなわけでこないだ、はてブでは最新話の「海のなか」(27)を更新しました。
 ここから物語は本格的に転がり始めます。刮目せよ。結構いい感じにかけたと思うねん。

今後、元原稿に大幅な変更を加える予定です。だから更新ペース落ちちゃうかも。プロットからぶち壊す勢いやからな。


それでは、今回は海のなか(22)から(26)をざっくりまとめます。


海のなか(22)〜(25)

愛花と一馬の中学時代を一馬視点で回想する。
過去から現在を辿りながらその関係性を紐解く。


海のなか(26)

海のなかにて、青は13年前のあの日を回想する。謎多き彼の内面が垣間見える超重要回。

必ず読んでから27を読んでください。二つ合わせて超序盤の伏線回収になっています。どこが伏線かわからない人は「海のなか」(1)から(4)くらいを読み返すとよくお分かりになるでしょう。


愛花って?一馬って?青って?登場人物忘れた人は、まとめの2をご覧ください。主要人物をまとめています。海のなかまとめマガジンにてご覧いただけます。

ちなみに、22から25はまるっと一馬視点での過去編なのでこれだけで短編っぽく読めます。この短編(笑)をもっと面白く読みたいという方は、「海のなか」(12)と(13)を読んでから(22)を読んでみてください。同じ状況でも愛花からみたものと一馬から見たものでは全く違うということがよくわかると思います。この手法、めっちゃ使う。好きすぎて。

ちなみに、22から28まで丸っと元原稿になかった展開なんだよね。すでに道なき道やん。どうすりゃええねん。

てか、一馬と愛花を出すと急にエンタメ味が増しますな。お前ら別の話かよって感じ。

これからはますます青と夕凪にお話の軸がうつっていきます。(文化祭編、メインキャラなのに青がほぼ空気だったので、忘れられてないか心配。ほれ、あれよ、あれ。水中で息できる系の不気味な美少年?よ。多分)


というわけで、これから先の展開は私も知らん。とっても楽しみです。更新遅い時は読み直しながらゆるゆる待ってもらえたら嬉しいです。

それでは。

明日以降、noteにも「海のなか」(27)をアップします。お楽しみに。この回で最新に追いつく予定です。

小説・「海のなか」(31)

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前話はこちら。

 

kuromimi.hatenablog.com

 

 

 

***

 


「さて。何を話そうか…」

 リビングのイスに腰を下ろすと、父は向かいにわたしを座らせた。こうして相対するのも久しぶりだった。朝早くから夜遅くまで働いていることの多い父は、家族でありながらほとんど会うことはない。それはわたしがほとんど自室に引きこもっているせいでもあるけれど。いつからだろう。誰かがいる空間に耐えられなくなったのは。それが家族なら、尚更だった。その目で見られるだけで、心に土足で踏み入られるような不快があった。家族は他人だ。よく家族や恋人という名前を、許可証のように振りかざす人がいる。そんなこと、許されるはずがないのに。家族だろうと何者だろうと理解できないものはある。家族だからといってお互いに理解可能なものである必要もない。そうでなくては、おかしい。

 にもかかわらず、両親は家族という幻想を信じる人々の一人だった。もっとも、今はわからない。ここ数年ろくに口を聞いていないのだから。

 目の前の父は、記憶の中より幾分くたびれて見えた。すでに、壮年から老境へと差し掛かろうとする気配さえある。彼の風貌は驚くほどわたしに似ていない。他人だと言えば、そのまま信じてしまうだろう。事実、幼い頃並んで歩いている時にも奇異な目で見られることが幾度かあった。

 その度思ったものだ。わたしは誰の子供なんだろう、と。親としてわたしに接し続けていたのは、間違いなくこの男だった。父がいなければ小瀬家はとうに破綻していた。だが、わたしが母ーーー小瀬眞琴の子供であることは明らかな事実だった。なにせ外見はあの人の生写しだ。親としては何一つわたしを育くむことのなかった母親にばかり、似てしまった。

 幼いわたしは父と、そして祖母によって育てられたのだ。祖母というのは、母方の祖母だ。今は和室の奥で縁取られ、仏頂面を晒している。

 祖母の面影を手繰り寄せるうち、脳裏を少しずつ過去が染め上げていった。わたしは幼い日の何年かを、祖母の家で暮らしていたのだ。それさえも忘れていた。人生上で最も輝いていて、同時に最も忌むべき出来事を孕んだあの時期を。

「夕凪」

 名前を呼ばれ、ようやく過去から覚めたわたしは顔を上げた。

「むかし、高浪の幸子おばあちゃんのところにしばらくいた時期があったのを覚えてるか」

 高浪は母の旧姓だ。おそらく、夢に出てきた情景はその頃の記憶を元にしているに違いない。

「うん」

「じゃあ、何歳から何歳まであそこで暮らしてたか思い出せるか」

言われてしばし頭の中を探ったけれど、どうにも見当たらない。そういう時期があった、ということだけがたしかだ。あとは断片的な場面が浮遊しているに過ぎなかった。始まりも終わりも何処にか消えたように、思い出せない。

 わたしはかぶりを振った。

「……だろうな」

 そう返した父の目はどこか遠くを見ていた。たしかにその目はわたしに向いている。だが、その眼差しは今のわたしに向けられたものではなかった。

「お前があそこにいたのは、2歳から5歳の約3年の間だ。……本当はな、もう少し長くあっちで暮らしてもらう予定だったんだ。そうだな、できればせめて小学校に上がるまでは。俺は仕事で家を空けることが多かったし、お母さんはああいう人だからとても夕凪を任せることはできなかった」

 途方に暮れたようなため息は、思わずといった風情で父の口から吐き出された。

 「だが、その予定は破綻した。なぜかわかるか?」

 すると父は、感情に揺らぐ瞳でわたしを見据えた。

「高浪のおばあちゃんが死んだからさ」

 そう告げられたとき、不思議と激しい感情は起こらなかった。奇妙に凪いだ内面に部品がひとつ舞い降り、しかるべき場所に収まっていった。

「おばあちゃんがどうやって亡くなったのか、それはわからない。死体が見つからないんだ。だから本当は、死んだのかすらわからない。今も行方不明、という言い方もできるだろう。ただ確実なのは、砂浜に打ち上げられた状態で5歳のお前があの夏、発見されたということだ。三日も行方不明だったのに傷も後遺症もなく、な」

 「夕凪。何か、思い出さないか?」

   「今年の夏にそっくりだって言いたいの」

 「その通りだ。俺はあの時、今度こそお前までいってしまったんだと覚悟したよ。……戻ってきて、本当によかった」

   父の温かな優しさは、なぜか気味が悪くてみじろぎした。

 「どうして今まで黙ってたの。おばあちゃんのこと」

 それは、どうして今の今まで過去を忘れていたのか、という問いでもあった。

 「幼い頃のお前は、おばあちゃんがもういないと理解していた。だから、病院で目を覚ましてからは何日も泣いていたんだ。あんな姿は見たことがなかった。けれど、目覚めて三日経った頃かな。ぴたりと泣かなくなったんだ。……しばらくして気がついたよ。お前は、行方不明になったことも、おばあちゃんのことも全て忘れていると」

 父は自分の膝に吐き出すように語った。

 「守るつもりだったんだ。このまま忘れたままでいれば、お前は日常に戻れる。だから…」

 弱々しい末尾は、言い連ねる気力を失った口へと吸い込まれていった。不意に、目の前の男を嬲ってやりたい衝動に駆られる。しかし、その感情はほんの一瞬激しく燃え上がっただけだった。感情は、いつもこうだ。わたしにとって感情とは、臨場感の損なわれた映画のワンシーンなのだ。だからわたしはただ、待っていればいい。そうすれば次の訪れがある。

 ーーーーほらきた。他人事のように思った。

 怒りと入れ替わりにやってきたのは、薄ぼんやりとした虚しさだった。それはひどく馴染みのある感覚だった。

 これは自衛なのかもしれない、と思う。激しい感情を抱くことを恐れているのだ。その激しさによって自分が壊れてしまうことを。そして、己の感情に振り回される母のような女になることを。

 気がつくと、長いため息をついていた。もうこの場にいたくはなかった。父の気遣わしげな視線から逃げ出したかった。今はただ、一人でいたい。思ったより、わたしは神経質になっているのかもしれない。立ち上がると、思いがけず椅子が大きな音を立てた。

 「ありがとう。話してくれて」

 見下ろす父の姿はさらに小さく見えた。頼りない姿を見ていると、何故だか後ろめたくて居た堪れない。自分がこの弱そうな生き物をいたぶっただけのように思えてならなかった。

 ーーーーそれきり、父とは話していない。

 


***

 

小説・海のなか(32)へとつづく。

 

小説・海のなか(30)

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前話はこちら。

 

kuromimi.hatenablog.com

 


***

 いつのまにか、わたしは外へと飛び出していた。全てを剥き出しにし、なりふり構わず。気がついた時には既に、家へと続く長い坂道を走り降っているところだった。
 一歩踏み出すたび、歩みが身体中に響いてわたしの内側を滅多撃ちにした。久しぶりの全力疾走に、呼吸音しか聞こえなかった。現世の全てが遠ざかり、その分頭の中の光景が色濃く迫ってくる。日暮れの青く染まり始めた家路はやけに遠く感じられた。
 もう、戻れない。
 一度思い出してしまえば、なぜ忘れていられたのか、もうわからない。ーーーーあんなにも、一緒にいたのに。
 ようやく辿り着いた家の門扉に手をかけた時、急に恐れが湧き上がってきた。この扉は過去へと続く扉だ。そもそもなぜ今まで忘れていた?なぜ両親は私に隠していたのだろう。秘密を暴いて仕舞えば、何か悍ましいものがその奥には眠っている。それは間違いのないことのように思えた。
 本当に知ってしまってもいいのか。
 そう考えた瞬間、ドアを開けていた。もう逃げたくなかった。何かを変えようと思うなら、何かを壊さなくてはならない。たとえそれが自分自身だとしても。少しでも立ち止まれば恐怖に足が止まりそうだった。全てを振り切るように、わたしは奥の和室へと駆け込んだ。ここにあるはずだった。今まで忘れ去っていたものが。
 座敷の奥に、瞳は誤りなく目的のものを捉えた。
 ーーーーあった。
 その瞬間、揃ったピースが組み上がっていくのを感じた。
祖母の遺影。仏壇だ。暗い室内でもその面影は間違いなくあの夢に重なった。白髪で仏頂面の彼女。祖母はあまり笑わない人だった。
 「……おばあちゃん」
 頭の中がざわつく。「あの人」の輪郭がはっきりとなぞり書きされていく。あれほど脳裏に立ち込めていた靄は立ち所に何処へかと消えていった。
 どうして忘れていられたのだろう。
「ごめん」
 掠れ声でそう口にした時、襖が小さく軋んだ。見ると、父が廊下からこちらを伺っているのだった。その足元から伸びた影がこちらの暗闇に呑み込まれている。細い影は所在なさげに揺らいでいた。
 「……夕凪」
 久しぶりに聞く父の声は、記憶よりずっと低い。
 「おとうさん」
 「教えて、全部」
彼は一瞬、首を絞められたように息を詰めて黙り込み
 「……思い出したんだな、夕凪」
 絞り出すように言った。
 「もう逃げない」
 短く告げたわたしを見つめ返す父の表情を、しかしわたしは見ることができなかった。逆光だったからだ。顔を黒く塗りつぶされたまま、父は俯き深く息を吐き出す。そうして、「もう逃げられないな」という呟きが微かに耳へ響いた。

***

 

海のなか(31)へ続く。

他人に期待するのはもう、やめよう。

 

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しばしば

「上司なら〇〇して頂かないと」

「あの人は課長なのに〇〇だ」

と口にする人がいる。そんな言葉を聞いた時、いつも思う。

あれ?全然思ったことない、って。

そう。わたしは全く共感できないのだ。なので同意を求められた時、曖昧な笑顔で濁してばかりだ。

 


思い返してみれば、わたしは人生上でほとんどと言っていいほど社会的立場によって他者を尊敬したことはない。良い人であることを期待したこともない。それはきっと、わたしが人の善性を微塵も信じていないからだ。性悪説性善説なら、圧倒的に性悪説を支持するだろう。

 


 さて、ここで冒頭の言葉をもう一度読んでみて欲しい。この言葉の裏には他者への「期待」や「願望」や「幻想」が間違いなくある。思えば勝手な話ではないか?社会的立場を持っているというだけで、勝手に願望を抱き、そこから外れれば批判するのだから。

 


勿論、立場が人を変えることもあるだろう。しかし、それは絶対ではない。大体、そんな程度のことで人間の本質は変わったりなどしない。「三つ子の魂百まで」とはよく言ったものである。

 


人間はきっと変わることなどできない。変わったように演じることは出来るが。人間に一生ついて回るのは生まれ持った性質のみである。そうしてそれが環境によって善か悪かにより分けられる。人間の性質にもともと善悪などない。わたしはそう思う。

 


とまあ、今の今まで物知り顔で言説を並べ立てているわたしだが、この論理は無論、私自身にも跳ね返ってくる。

 


私は確かに「上司」「先生」などの肩書きで人を判断しない。だが、一方で年齢というフィルター越しに他者を見るきらいがある。例えば、「この人は30歳なんだから〇〇できて当たり前」というような。ある意味私も立場を通して人を評価しようとしている。

 だからこそ私もまた、さっさと悟るべきなのだ。

「年月は必ずしも人を変えない」と。「立場が人を必ず変える」ことのないように。幻想を追っていては、物事の本質は見えてこない。

 


ありきたりな言い回しで恐縮だが、自分が変えられるのは精々自分のことだけである。

 


だからこそ、

 


他者が変わらない、気に食わないと口を動かすより先に、まずは自分が動き、対処を模索すべきなのだ。

 


もう、他人には期待しない。

それはこういう意味だ。

 

 

クロミミははてなブログにて、「KUROMIMIには本が足りない。」を更新中。先日、連載小説「海のなか」の最新話を更新しました。ここ数ヶ月苦しんでたけどようやく描けた。物語も佳境です。ぜひご覧ください。

小説・「海のなか」(29)

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前話はこちら。

 

kuromimi.hatenablog.com

 

***

 


 夢に出てきたと思しきそこは、海の見える窓際の席だった。その夕暮れ、マキノのアイスクリーム屋を訪れたのは、夢が忘れがたかったからだった。窓辺から見える景色の真ん中には青い帯が遠く揺らめいていた。わたしの正面にはもう一人分の空席がある。あの夢では埋まっていた席。そこにいくら目を凝らしても、何か像を結ぶことはなかった。ただ、気配だけが凝集し、何かを為そうとしている。記憶の裏側を、無遠慮に引っ掻かれるような不快が海馬を刺激した。けれど、その強烈さとは裏腹に何一つ思い起こすことはできない。同様の手触りをここ最近幾度となく味わっていた。夢のことは、はっきりと覚えている。特に最近見た夢は鮮明だった。ただ相手の顔だけが、つるりと無い。そこだけ綺麗に抜け落ちて、いつまでもいつまでも空白なのだった。

 夢の中で、わたしは幾度となく「あの人」に会った。あの老人に。男なのか、女なのか、それすらわからない。船着場を手を繋いで共に歩いた。この席で向かい合って、アイスを食べた。あの人はわたしに笑いかけた。ーーーー幼いわたしに。そしてわたしは、指切りをした。全てあの人が関わっている。幾度も夢を見るうち、気がついた。あれはただの夢ではない。あれは、記憶なのだ。

 「久しぶりじゃん、夕凪」

    聞き覚えのある声がして、思考は断ち切れた。見上げると沙也がこちらを見下ろしていた。

 「ここ、座ってもいい」

 その申し出に少し驚きながら、小さく頷いた。それはいささか沙也らしからぬ行動に思えた。彼女は友人を見つけたからといって、わざわざ相席をしようとするタイプではない。むしろ、会釈でもして遠くの席に去っていくはずだった。彼女は一人の時間を愛せる人だと思う。一人を選ぶ強さを持っている。

    「いつも、ここに座ってるから」

 疑問に応えるように、沙也は言った。そんなにわかりやすかっただろうか。顔を上げると不覚にも目があってしまって、すぐに俯いた。いつでも彼女が怖かった。そして憧れてもいたのだ。強く、まっすぐな沙也に。だからこそ、その聡い目を覗き込むことはできない。全てを見透かされてしまいそうで。

 「食べないの?溶けてるけど」

 向かいから指摘されて、恐る恐る視線を向けると、注文したアイスは一口も手をつけないまま、半ば液状化していた。二つあったはずの白い塊は元の形を失いつつ、銀の皿を満たしている。

 するとその時、カウンターの方から足音が近づいてきて、真横で立ち止まった。

  「はい、いちごアイスひとつね」

  「ありがとうございます」

 ウェイターと沙也のやりとりを聞いて、やっとアイスに手を伸ばすことができた。いつもこうだ。自然に振る舞うとは何かが、わからない。溶けたアイスを掬って口へと運ぶ過程で、ポタポタと雫が白く跡を引いて、机を汚した。

 ああ。何一つうまくいかない。

 だから一人がいい。

 誰からも見られないなら、いい。

  「ねぇ、今日学校来てたの」

  「え?」

 唐突な問いかけに喉が詰まった。見開いた目には、怪訝な顔の沙也が写った。彼女の人差し指は制服を指していた。

  「…いや、制服着てるからさ」

 文化祭以来、登校していなかった。夢日記をつけ始めてから、ずっと。朝、家で制服を着て出かけ、人目を偲ぶように夕方家路に着いた。なぜ学校に行くふりを続けているか、自分でもわからなかった。不登校を知ったところで、母はきっと気にも留めないだろう。それなのに、なぜ。

 学校にも家にも、わたしの居場所はなかった。もう思い出せないほど昔からそうだった。それでも今ほど独りがつらくはなかった。それが、普通だったから。

 こんなことなら、青に出会わなければよかった。

何度そう思ったか知れない。

甘い充足の味を知った後は、余計に地上へ帰るのが辛かった。けれど今、あの場所すら変質しつつある。楽園が喪われつつあるのを、感じないわけにはいかなかった。

 あの日、薄れゆく視界の中で青の口はこう動いていた。

 『思い出したら、語っておくれ』

 と。夢について話した時の青の目の色が忘れられない。青が、執着を向けるものがこの世にあるなんて。もしも全てを思い出し、語ったなら。青から注がれる眼差しの理由をわたしはついに知るのだろうか。

 ずっと知りたかったはずだーーーーそれなのに。たまらなく怖いのは、どうしてなんだろう。

 「……やっぱり行ってないんだ」

 長い沈黙を肯定と受け取って、沙也は言った。

 「……気づいてたんだ」

 久しぶりに聴く自分の声は、自分自身でもわからないほど掠れて、別人の声だった。

 「まあね、陵がうるさいから」

 「そっか……」

 「てか、夕凪がこの店にいるの珍しいよね」

 沙也がアイスを口に運ぶ。気だるそうな様子だけれど、好物なのか僅かにほおが緩んだ。

 「えっ?あっ…そうかな…」

 「あたしも愛花もこののアイス好きだからよく来るし。昔から家族でも食べに来るけど見たことない」

 「そういえば……そうかも」

 「あ、でも。ものすごく前に何回かだけ夕凪のこと、見たことあったな」

  「え?」

 「いや、かなり前……多分小学校上がる前じゃなかったっけ」

  「そう…なの?」

 すると、沙也は小さく頷きながら頬杖をついた。その目はなにか確信ありげに輝いている。

 「そうそう!思い出した。確かこの席だった。珍しいと思ってたんだよね。確かあの日母さんと妹弟で来てさあーーーーー」

 その時、ガチャンと音が鳴った。わたしの手からスプーンをが滑り落ちたのだった。

 


それから先の沙也の言葉は、思い出せない。

 

 

 

***

 

小説・海のなか(30)へつづく。

 

 

次話はこちら。

 

kuromimi.hatenablog.com

 

 

4月のイラストが完成しました。

 


#クロミミ的壁飾り

 

 

 

4月の壁飾りが完成しました。

 


今年度はこれで最後です。

来年度も描こうかな?考え中です。

 


なかなか構図が思い浮かばなかった1〜3月とは違い、すぐ構図が降りてきた。やっぱりこういう時は割とうまく描ける。 

結構丁寧に描いたけど、2時間半くらいで全部かけた。

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描きながら、ネトフリで血界戦線からのドロヘドロのアニメ見てたら超楽しかったわ。(てゆーかその日は一日見てたんだよね)

二つとも、やはり名作と言わざるを得ない。でも、血界戦線のアニオリはやっぱり嫌かな…途中まではマジでアニオリも良かったけど、畳み方がちょっと「盛り上げとけばいいんでしょ」感があって雑だった。オリキャラは良かったと思うんだけどな。

 


血界戦線→ベタだけどザップ推し。王の中なら断然、偏執王アリギュラ

 


ドロヘドロ→やっぱり推しは心パイセンかな。好きなキャラしかいなくて困る。心パイセンの過去話が死ぬほど好きやねん。もうアプリでドロヘドロ全話読んだけど、やっぱり紙で全巻ほしくてちょっとずつ集めてる。

 

 

 

さて。

イラストについてですが。

 

 

 

4月はやっぱり入学がいいかなって。

入学式からの帰り、親を振り返ってドヤ顔してる 1年生ちゃんです。女の子です。

 


女の子の帽子が上手くかけて大満足。リボンとかついてるのいいよね。わかる。

 


ランドセルに隠れて描けてませんが、セーラー服です。この学校は男の子も女の子もセーラー。

 


リボンも取り外し式で、リボンとネクタイがえらべます。

 


私立の小学校の制服ってかわいいよね。あんなイメージ(まあおいら、私立の小学校通ったことねーけど)都会にはいっぱいおるらしいやん?(おいらは田舎民)

 


ちっちぇー子のドヤ顔クッッソ可愛いなと思って、描いてたら可愛子ちゃんがかけました。ほっぺ結構可愛くかけたと思うんよ。

 


それでは、新一年生に幸あれ〜

 


クロミミははてなブログにて、ブログ「KUROMIMIには本が足りない。」を更新中。連載小説「海のなか」はもうすぐ更新30回目を迎えます。ぜひご覧ください。

 


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お気に入り色鉛筆を語る。

#クロミミ的画材

多分ここ最近、人生上で一番カラーイラストを描いている気がする。

今回は私が使ってる色鉛筆を語ります。

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ファーバーカステル  スムースブライトカラーペンシルズ

三菱鉛筆 ユニ カラードペンシル

ファーバーカステル ゴールドファーバー48色

それぞれの詳細については、画像をご覧ください。みにくかったらごめんね〜。

それぞれのお気に入りの色を出してみたよ。
いい色多すぎてワロタww(それ選ぶって言わんやつ。)

ファーバーカステルの色鉛筆は、小学生の頃から使ってるけどまだ使いきれない。コスパ良すぎか。とりま、ファーバーの赤缶はめちゃくちゃ使えるぞ。みんな買おう。

他にもいろんな色鉛筆を試してみたい。

今度は濃くて柔らかい色鉛筆が欲しいかも。しばらくはこの組み合わせで行くけど。今はおすすめしてもらったホルベインアーチストが気になってる。

皆様もおすすめ色鉛筆あったらコメントで教えておくんなまし。

それではまた。

今まで描いたイラストはこちら。

#クロミミ的コンビ
#クロミミ的壁飾り

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