KUROMIMIには本が足りない。

KUROMIMIには本が足りない。

活字がないとダメ系ヲタク。小説・音楽・詩・ときどき映画。自作の小説も書いてます。

第六章 萌芽

小説・海のなか(21)

前話はこちら。 kuromimi.hatenablog.com *** 座っているのにそれより深く、落ちて行くような感覚だった。わたしを支えるものが消えてしまった。 図書室はいつも静かだ。わたしの知る人は、誰も来ない。だからここにいる。いつだってそうだった。わたしの…

小説・海のなか(20)

前話はこちら。 kuromimi.hatenablog.com *** 図書館の入り口近くはすぐカウンターになっていて、その真ん中にひっそりと男性の司書さんが腰掛けていた。頭には白髪が入り混じり、頬も心なしか痩けている。神経質そうな生真面目そうな面持ちが印象に残っ…

小説・海のなか(19)

前話はこちら。 kuromimi.hatenablog.com *** なぜ、あんなことを言ってしまったのだろう。 自分の言葉を反芻するたびに嫌気が差した。 『夕凪、あたしが探してこようか?』 自分でやったことのはずなのに。あんなことをしてしまった自分がわからない。あ…

小説・海のなか(18)

前話はこちら。 kuromimi.hatenablog.com *** 教室を出るとともに、また俺は囚われてしまった。 あの問題。未来という問題。 考えたくないと思えば思うほど逃れられなくなる。泥濘に足を取られ、はまり込んでゆく。もう誰のせいにもできない。逃げていた…

小説・海のなか(17)

前話はこちら。 kuromimi.hatenablog.com ※※※ こういうことは苦手だ。俺は再確認する様に噛み締めた。我ながら、とことん裏方気質というか。こういうことはきっと佐々木なんかに向いているに違いない。けれど、悔いてももう遅い。断りきれなかった俺が悪い。…

海のなか(16)

前話はこちら。 kuromimi.hatenablog.com ※※※ 「だめ、サヤ。まだ目は伏せてて!マスカラ失敗する」 愛花がピシャリと言った。我ながら私も往生際が悪い。ここに座ってからもう、15分は経っている。愛花はなおも腰をかがめてマスカラを塗り重ねていた。メガ…

小説・海のなか(15)

前話はこちら。 kuromimi.hatenablog.com もう十月だと言うのに、体育館には熱気が充満していた。息苦しさにもがくように汗を拭う。壇上では生徒会長の佐々木が挨拶をしていた。ようやく今日がはじまる。準備作業の大変さを思うとそこから解放されることも相…

小説・海のなか(14)

前話はこちら。 kuromimi.hatenablog.com 第六章 「萌芽」 『10月3日 木曜日 今夜はなんだか落ち着かなくて、彼に会いに家を抜け出した。このところは、毎晩会いに行っている。』 夜空を引っ掻いたような頼りない三日月が浮かんでいた。今にも消えそうな感じ…