KUROMIMIには本が足りない。

KUROMIMIには本が足りない。

活字がないとダメ系ヲタク。小説・音楽・詩・ときどき映画。自作の小説も書いてます。

海のなか

小説・「海のなか」(44)

前話はこちら。 kuromimi.hatenablog.com 次の日も、その次の日も夕凪は俺を待っていた。俺はその姿を見るたび、何か責められているように感じた。そしてようやく気がついた。夕凪がいなかったあの日、自分が傷ついていたということに。そして傷を持て余し、…

小説・「海のなか」(42)

前話はこちら。 kuromimi.hatenablog.com 翌日、夕方が近づいてくるとわたしは社殿の影に身を隠した。それが悪いことだとわかっていたけれど、どうしても見たかった。わたしの不在を知った陵の表情を。その顔色ひとつでわたしの中の何かが決定的に動いてしま…

小説・「海のなか」(41)

前話はこちら。 kuromimi.hatenablog.com *** あの日から毎日気がつけば境内に腰を下ろしていた。なぜかそうしているだけで息をするのが楽になる。不思議な心地だった。相変わらずすることはなかったけれど、心は穏やかだった。わたしの目は気がつくと石…

小説・「海のなか」(40)

前話はこちら。 kuromimi.hatenablog.com *** あの夜から毎晩夕凪に会いに行った。特にこれといった心境の変化が自分の中で起こった訳ではない。ただ、気がつくと足が神社へと向かうのだった。夕凪もまた日没の境内に毎日いた。俺を待っているのか、それ…

連載小説・「海のなか」登場人物紹介

「海のなか」もいよいよ最終局面になってきました。以下の登場人物紹介を読んで完結までお付き合いいただけると嬉しいです。今回の登場人物紹介は今までのまとめ記事に載せていたものに大幅加筆しています。以下には「海のなか」(39)までのネタバレも含み…

小説・海のなか(39)

前話はこちら。 kuromimi.hatenablog.com *** 気がつくと陵とはもう別れていて、わたしはひとり夜道を歩いていた。さっきまで食べていたおでんのせいか、腹の底はほかほかとぬくもりを宿していた。 無意識のうちに頬に触れていた手をそのまま握り込むと冷…

小説・海のなか(38)

前話はこちら。 kuromimi.hatenablog.com *** 夕凪は零れる涙を止めることができないのか、微かに体を震わせていた。けれどそのうち諦めて、流れてゆく涙をも食うように無言で食べ始めた。俺はといえば、どうすればいいのかもわからず、気がつけばつられ…

小説・「海のなか」(37)

前話はこちら。 kuromimi.hatenablog.com 「ありがとう…」こぼすように呟くと、夕凪は暗がりの中じっとこちらを見つめていた。 「なんか変?」 戸惑って俺は半笑いになってしまう。すると、夕凪ははっとして「いや、本当に来てくれると思ってなくて」 と言っ…

小説・海のなか(36)

前話はこちら。 kuromimi.hatenablog.com ※今回は海のなか(35)と(36)は連続更新になります。近日中に(37)も更新予定。 *** 無理に走り出したせいで、走り方はまだどこかぎこちなかった。さっきまでのあまりにも自分らしくない強引なやりとりに、い…

小説・海のなか(35)

前話はこちら。 kuromimi.hatenablog.com *** 見つかってしまった、と思った。 今だけは誰にも会いたくなかったのに。けれど、よく考えてみれば会わないはずがないのだ。陵の家はこの神社を抜けてすぐだった。そんなことすら頭から抜けてしまうほど考えに…

小説・海のなか(34)

前話はこちら。 kuromimi.hatenablog.com *** もう何度目かの物思いから回復すると、あたりは薄暮だった。つい先程までははっきりと見てとれた物の輪郭が一気に崩れ薄闇へ溶けようとしている。一瞬、自分の視力ががくんと落ちたかのような錯覚に襲われた…

小説・海のなか(33)

前話はこちら。 kuromimi.hatenablog.com 今までのあらすじ 高校2年生の少女、小瀬夕凪は海で遊んでいて、溺れてしまう。溺れた先で彼女はある不思議な「青」と名乗る少年と出会う。 結局、夕凪は数日後海辺に打ち上げられる形で発見され、日常へと戻る。し…

小説・「海のなか」まとめ6

前回のまとめはこちら。 kuromimi.hatenablog.com どうも。 暑い夏がこの世で一番忌々しいです。クロミミです。 今回は連載小説のまとめ記事を投下します。 久々のまとめ記事、今回は連載小説・「海のなか」の(27)から(32)のあらすじをざっくりまとめま…

小説・「海のなか」(32)

前話はこちら。 kuromimi.hatenablog.com *** 何度も繰り返し、叫んでいる。 「ーーーー!」 誰かを追いかけていた。 遠くに長い髪が靡いているのが見えた。わたしと同じ、色素の薄い髪が日の光に透けた。 ああ。あの後ろ姿を何度も見送ったことがある。 …

小説・「海のなか」まとめ5

※当記事はかなり前に作成した物ですが、投稿を失念しておりました。後日、小説・「海のなか」(32)とまとめ記事その6を投稿予定ですので、そちらも併せてご覧下さい。 どうも。クロミミです。 最近仕事のキツさが尋常じゃなくてほぼほぼ休日はお布団と合体…

小説・「海のなか」(31)

前話はこちら。 kuromimi.hatenablog.com *** 「さて。何を話そうか…」 リビングのイスに腰を下ろすと、父は向かいにわたしを座らせた。こうして相対するのも久しぶりだった。朝早くから夜遅くまで働いていることの多い父は、家族でありながらほとんど会…

小説・海のなか(30)

前話はこちら。 kuromimi.hatenablog.com *** いつのまにか、わたしは外へと飛び出していた。全てを剥き出しにし、なりふり構わず。気がついた時には既に、家へと続く長い坂道を走り降っているところだった。 一歩踏み出すたび、歩みが身体中に響いてわた…

小説・「海のなか」(29)

前話はこちら。 kuromimi.hatenablog.com *** 夢に出てきたと思しきそこは、海の見える窓際の席だった。その夕暮れ、マキノのアイスクリーム屋を訪れたのは、夢が忘れがたかったからだった。窓辺から見える景色の真ん中には青い帯が遠く揺らめいていた。…

小説・「海のなか」(28)

前話はこちら。 kuromimi.hatenablog.com *** 20××年 10月5日 溺れている。 深い色。 上の方に光が見える。 *** 20××年 10月6日 「はやくおいで」 と誰かが呼んでいた。 顔がない女。 でも、笑っているのがわかる。 *** 20××年 10月7日 「 」 誰か…

小説・「海のなか」(27)

前話はこちら。 kuromimi.hatenablog.com 第八章 「夢中と現実」 瞼が上がると、「ああ、これは夢だな」という冷めた自覚が生まれた。飽きるほど繰り返した夢だった。 夢の中で、わたしの胸は締め付けられるように苦しい。目の前には残酷なほど美しいブルー…

小説・『海のなか』(26)

前話はこちら kuromimi.hatenablog.com *** 今宵も13年前のあの日のことを語らなければならない。忘れないために。そして、叶えるために。 13年前、あなたはあの子を抱えてここに降り立った。あの時の光景は今でも色鮮やかだ。時を切り取り保存する術があ…

小説・「海のなか」(25)

前話はこちら。 *** kuromimi.hatenablog.com 付き合い始めたからといって、ほとんど変化はなかった。変わったことといえば、必ず待ち合わせて帰るようになったこと。それから時々手を繋ぐようになったこと。それだけだ。付き合っていると見せかけるため…

小説・「海のなか」(24)

前話はこちら。 kuromimi.hatenablog.com *** もう秋になり始めた頃のことだった。秋といってもまだまだ残暑は厳しい。言い訳のように頭上では鱗雲が透き通り、もう秋だと主張していた。 放課後を俺はまた愛花と過ごしていた。この頃は帰りが一緒になると…

小説・「海のなか」(23)

前話はこちら。 kuromimi.hatenablog.com *** 例の一件から、愛花は何かと俺に話しかけてくるようになった。俺はといえば、美しい猫が俺にだけ特別なついたかのような、幼い優越感を感じて日々を過ごしていた。実際、あの日から愛花の鋼鉄の扉はほんの少…

大人になったからこそ、描けるもの。

連載小説・「海のなか」について。 どうも。 クロミミです。 最近やっとこさ最新話を更新いたしました、連載小説「海のなか」。今回はこちらの作品を制作するに至るまでの話を少しだけしたいと思います。お付き合いください。 話を始める前に、まだ読んだこ…

小説・「海のなか」(22)

前話はこちら kuromimi.hatenablog.com 第七章 「追憶」 愛花と出会った時から、きっともう手遅れだった気がする。 今から思えばあれが、一目惚れというやつだったのかもしれない。もう昔すぎてよくは覚えてない。けれど、いくつかの場面が断片的に焼き付い…

小説・『海のなか』まとめ4

どうも。クロミミです。 今回は連載小説「海のなか」の(18)から(21)をざっくりとまとめていきます。お付き合いください。 いやはや。いつぞやこれからは更新頻度あげますとかのたまったアホはどこでしょう。ここです。 ほんまに有言実行のかけらもねえク…

小説・海のなか(21)

前話はこちら。 kuromimi.hatenablog.com *** 座っているのにそれより深く、落ちて行くような感覚だった。わたしを支えるものが消えてしまった。 図書室はいつも静かだ。わたしの知る人は、誰も来ない。だからここにいる。いつだってそうだった。わたしの…

小説・海のなか(20)

前話はこちら。 kuromimi.hatenablog.com *** 図書館の入り口近くはすぐカウンターになっていて、その真ん中にひっそりと男性の司書さんが腰掛けていた。頭には白髪が入り混じり、頬も心なしか痩けている。神経質そうな生真面目そうな面持ちが印象に残っ…

小説・海のなか(19)

前話はこちら。 kuromimi.hatenablog.com *** なぜ、あんなことを言ってしまったのだろう。 自分の言葉を反芻するたびに嫌気が差した。 『夕凪、あたしが探してこようか?』 自分でやったことのはずなのに。あんなことをしてしまった自分がわからない。あ…