小説 (仮題)反対の笑み⑴
その男は、少し違和感のある微笑でこちらを見つめ返していた。「違和感」というのは何も、目の前の男の笑みがぎこちなかったという意味ではないーーー。むしろ、穏やかに何の問題もなく男は笑っていた。違和感を覚えたのは、違っていたからだ。つまり、自分が鏡を見たときにそこに映る顔と今対峙している己の顔とが。
男も自分のクローンなのだと聞かされていた。顔の造形は全く同じなのに、中身が違うだけでここまで違って見えるものなのか。
そう考えるうち、気味の悪いものがどこかからかどくどくと湧き上がってきた。まるで、二人で一つの肉体を取り合っているみたいじゃないか?
取り憑かれたような嫌悪が私の視線を自然、下へと向けさせた。クローンに考えを読まれるのではないか。馬鹿げた考えが過ぎる。
感情を持て余しながら、思い出していた。ここにくる前に話されたことを。
ーーーー彼らは、つまり有能な戦士なのです。
ーーーー気にすることはありません、彼らはクローンなのですから。
男ーーー「S5」(エスゴ)は私のクローンだということだった。 ただし、彼だけが、というわけではない。私のクローンはもともと五体いたらしい。すでに四体は戦死してこの世界にはいないのだが。S5はクローン最後の生き残りというわけだ。
ひどく滑稽に感じる。なぜ私はここにいるのだろう。つい昨日まで、私は自分にクローンがいることも、さらに言うならこの国が戦争をしていることすら知らなかったというのに。
目の前の男の目は、私を哀れんでいるようにも、蔑んでいるようにも見えた。
その目の奇妙な冷たさに同調している自分に対する心地よさと気味の悪さが、同時にジリジリと胸の内を満たしていった。
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