うみにどぷん、と溺れてしまったみたいに列車の窓は黒い。
みんなはまだ目覚めない。
此処にいるひと以外はみんな夢の中で溺れている。錯覚と実感の狭間で。
手につかんだものは全て霧散する。暗闇に塗りつぶされてしまうから。
この町の4時半をはじめていま、生きている。この朝は私だけのもの。
いつもは聞こえない電車の軋みが空間を満たした。
母はもう眠りについただろうか。私の心配ばかりしているあのひと。
「いっておいで」
母の声を思い出す。彼女は目覚めて最初に私の名前を呼んだ。あのあたたかさをいつか、手に入れてみせる。
それが私を大人にする。
今はまだ、はやすぎるけれど。