KUROMIMIには本が足りない。

KUROMIMIには本が足りない。

活字がないとダメ系ヲタク。小説・音楽・詩・ときどき映画。自作の小説も書いてます。

海のなか(16)

 

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前話はこちら。

 

kuromimi.hatenablog.com

 

 

※※※

 


「だめ、サヤ。まだ目は伏せてて!マスカラ失敗する」

 愛花がピシャリと言った。我ながら私も往生際が悪い。ここに座ってからもう、15分は経っている。愛花はなおも腰をかがめてマスカラを塗り重ねていた。メガネをとったせいで、全てが霞かかって見える。

 ああ。らしくないことをしている。

 まだ、わたしの身体の内では不安に心臓が暴れていた。

「ねえ、もう良くない?ほら、この後シフト入ってるしさぁ」

 いつもとは違う愛花の様子に戸惑いを隠せないまま、そうボヤくけど返事はない。なぜ私たちが空き教室でこっそりメイクなんかしているのかといえば、それは全て沙也の気まぐれのせいだった。わたしはただ、開会式の余韻も去らないうちにここに連れてこられただけ。ここにきて勢いよく引き戸を閉めると、振り向いて愛花は言った。

 「サヤ、メイクしてあげる」

 「え?誰が誰に」

 「あたしがサヤに」

 あの時の愛花には逆らいがたいものがあった。普段だったら言ったはずだ。「嫌だ」と。なぜ私は委ねてしまったのだろう。それだけがわからない。こんな芋くさい女子を飾り立てたところで、高が知れているだろうに。

 きっとこんなどうしようもない気分、愛花にはわからないだろう。昔からそうだった。ひらひらのスカートもたっぷりとしたフリルも甘いピンク色も輝くアクセサリーも。全てわたしには縁遠いものだ。だからこそ、それ以外のことには一切手を抜かなかった。だって、わたしにはそれしかないから。

 そばかすの目立つ肌も、ひとえの小さな目も浅黒い肌も。みんな昔から大嫌いだった。何より嫌いだったのはこの長く黒い髪だ。わたしの髪はずっと長いまま。それはどこかで女らしさを諦めきれない自分の証明だった。この髪は、わたしの弱さだ。

 「よしっ!できた」

 突然、そんな声で物思いから醒める。気がつくと、目の前には鏡があった。

 「どお?いいかんじにしあがったでしょ?言ったじゃん。あたしが似合わせてみせるって」

 手鏡の向こうでは、愛花が自信ありげに笑っている。鏡越しに目が合った。

 「……悪くないね」

 「でしょ?」

 「サヤはさ、カッコいいけど。そこがいいとこだけどさ。だからって、外見までそれに合わせることなくない?…最初から似合わないなんて、決めつけるのはもったいないって」

 まるで別人みたいな愛花の声がする。普段より、ずっと大人びて落ち着いた女の声。わたしはこの子のことを何にも知らないのかもしれない。

 「愛花ってさ…なんか、すごいね」

 「そうなんだよね。なのに誰も褒めてくんない。みんな目ぇ腐ってんね」

 「そろそろ行く?模擬店の様子も気になるし」

 私がそう言うと、愛花はどこかからかブラシを取り出した。

 「いや。ついでに髪の毛三つ編みにしよう。ハーフアップでもいいけど、どっちがいい?」

 見上げてみると、その目は真剣なままだ。なぜか、その様子に笑いが込み上げてくる。

 「いいよ。愛花の好きな方で」

 仕方がない。もうしばらく遊ばれてやろう。背をもたせかけると、古い椅子はギッと軋んで抗議した。

 


※※※

 

海のなか(17)へつづく。

 

 

kuromimi.hatenablog.com

 

古本屋巡りな新年。

 

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こんにちわ。クロミミです。

新年あけましておめでとうございます。

今年も出来るだけ楽しさとやりがいに満ちた生活を送れればなーと思います。今年もいっぱい小説書いて、いっぱい本読みたいな。

 

今年の年末年始はジョジョと共にありました。

もちろん「岸辺露伴は動かない」のことです。

みなさんドラマご覧になりましたか。わたし、最高すぎて全話三回ずつ見たんですけど(暇かよ)

 

露伴先生ファンとしてはたまらんでしたな。(一番の推しは吉良ですが)高橋一生まじ演技神。他の俳優もやばかったし。高橋一生はカルテットの頃から大好きです。

 

本日はそろそろごろごろし尽くしたので、お外に出て古本屋に行きました。今日の釣果はこんな感じ。f:id:KUROMIMI:20210102150430j:image

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冒頭の「文学部唯野教授」も買いました。シャーロックホームズを買ったのは再リベンジを果たすため。なぜか私は今に至るまで本家シャーロックホームズを読めないでいるのだよ。ワトソンくん。がっつりの推理ものを攻略できない。なぜだろうか。カンバーバッチくん主演のドラマとかは大大大好きなんだがなぁ。

 

あとは、筒井康隆の「短編小説講義」、夢野久作の「少女地獄」、寺山修司の「地平線のパロール

本当はウィリアム・ギブスンとかも買いたかったけど状態がアレだったんで我慢しました。

 

写真二枚目は古本屋で売ってたブックカバー。かわいい。さっそく唯野教授を包んであげました。よしよし。

 

いまカフェでこれを書いてるんだが、さっき頼んだキャラメルラテが甘すぎずいい感じ。

母曰く、「唯野教授は真面目で人付き合いが苦手な岡田斗司夫」とのこと。

楽しみになってきやがった。

 

それでは、改めまして今年もよろしくお願いします。近日中にまた、小説・「海のなか」の続きを更新したいなって思ってます。

 

それでは〜。

 

 

小説・海のなか(15)

 

 

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前話はこちら。

 

 

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もう十月だと言うのに、体育館には熱気が充満していた。息苦しさにもがくように汗を拭う。壇上では生徒会長の佐々木が挨拶をしていた。ようやく今日がはじまる。準備作業の大変さを思うとそこから解放されることも相まって自然気持ちが高まった。

 佐々木はと言うと、何度も練習してきました。と言わんばかりの堂々たる顔つきで開会の挨拶をしていた。会場には名調子が響き渡り、一部の女子は熱心に耳を傾けている。本当はほんの10分ほど前に書き上げた原稿を読んでいるくせに。あいつは今日まで一文すら考えていなかった。ギリギリまで放置しておけるあの神経の太さは異常だと思う。しかも途中からは俺が作ったカンペを、無視して読んでいた。どうやったらあんな芸当ができるのか、皆目わからない。

 昨日までひたすら佐々木の尻拭いをしていた身としては、苦々しく思うのが自然なのだろう。けれどなぜだか、ちっともそんな気がしない。あいつはいい加減で迷惑な奴だけど、会長にしか出来ないことは絶対にやってくれるから。それに、あの抜き身さと奔放さにひっそりと憧れてしまう自分もいる。俺はああはなれない。あいつの持つ何もかもが、俺には持ち得ないものだ。

 きっと沙也がこんな俺の思いを知ったら、一言「いくじなし」と罵られてしまうのだろうけれど。それが俺なのだから仕方がない、とも思う。それに、「要領のいい奴を嫌う自分」を俺はどうしても好きになれない。周りだってそう言う振る舞いを俺に求めてるんじゃないか?

 よく「いい人」だと言われる。けど、俺自身は自分が「いい人」かどうかわからない。ただ周りに望まれるように行動してきただけだから。そこに俺の意思はない。いつもどこかでこの空虚さを埋められたらと願う。もうずっと前から。でも「何か」はいつまでも見つからない。穴は空いたまま。今までも、そしてきっとこれからも。俺は俺を知らないまま、生きていく。

 気がつくと、視線は自分のクラスのあたりを漂っていた。無意識に夕凪を探してしまう自分に少し驚く。彼女は最近学校を休みがちだった。その傾向は海で溺れたあの日からずっと続いている。だから気になるのだ、と言い切れないものが腹の中で渦巻いている。嵐の日に見た彼女の姿が焼き付いて離れないからだろうか。それとももっと前に?そんな風に辿っていくと原因はいくらでもありそうで、結論を出すことは容易ではなかった。

 夕凪はすぐに見つけられた。列の半ばで体育座りをして俯いている。色素の薄い長い髪の毛が帷のように垂れ下がり、ここからでは表情を読めない。もしかしたら眠っているのかもしれない。ともかく、今日は休まずに来れたようだ。自然、ほっと息が漏れた。一方でそんな些細なことで胸を撫で下ろしている自分にも違和感を覚えてしまう。

 夕凪。あの幼なじみに対してだけ、どうしてもうまくやれない。「いい人」でいられない。彼女が俺に何も望まないから。だから俺は俺の形がわからなくなる。今まで幼なじみの欲求がこちらに向くことはなかった。彼女と出会った幼い時からずっと。つい最近まで、夕凪には欲望が欠けていると思っていた。しかし、それは否定されてしまった。あの嵐の日に。

 俺はきっと知りたいのだろう。彼女の望むものはなんなのか。彼女の欲望の行く末を。俺もまた自分の欲望に振り回されているのだ。これは果たして好奇心と呼ぶべきものなんだろうか。

 夕凪を盗み見ていると、不意に痛みを感じた。隣に立つ沙也が肘で突いている。

 「副会長!早く!はやく!!」

 いつのまにか挨拶は終わっている。壇上では生徒会長が俺を待っていた。この学校では伝統的に会長と副会長が一緒に開会宣言をする慣わしだ。

階段を上がっていくと、佐々木がそっと耳打ちした。

 「おいおい〜珍しいじゃん?りょーちゃんがぼっとしてるなんてさ。しっかりしてくれよ〜?副会長。頼りにしてるんだから」

「お前はもう少し働け」

 佐々木がむかつく仕草で肩をすくめると、被せるように司会の声がした。

 「次は、会長・副会長による開会宣言です。よろしくお願いします」

 視線を下に下げると、沙也が睨んでいる。「さっさとして」と唇が動く。

 わかってるよ。まったく。

 「それでは、令和○年度 文化祭の開催をここに宣言します!」

 ハウリングとともに宣言が響いた。

さあ。今日が始まる。面倒な一日が。

 


✳︎✳︎✳︎

 

海のなか(16)へつづく

 

次話はこちら。

 

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小説・海のなか(14)

 



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第六章  「萌芽」

 


『10月3日  木曜日

今夜はなんだか落ち着かなくて、彼に会いに家を抜け出した。このところは、毎晩会いに行っている。』

 


 夜空を引っ掻いたような頼りない三日月が浮かんでいた。今にも消えそうな感じ。まるで、青みたいだ。

 だからわたしは会いに行くのかもしれない。彼が今日もあの場所にいるか、確かめるために。そんな自分に気がつくたび、気持がわるい。わたしもあの人の娘なのだと実感してしまって。もう何も好きにはなりたくないのに。どうしようもなく心が動いてしまう。

 水底を漂う海流がわたしの髪の毛を巻き上げて散らしていった。動きがゆっくりと伝わってくる。その感触だけがわたしを現実に縫いとめている。完璧な夢の中でわたしだけが調和を乱している。

  「なにを見ているの?」

 美しい少年が尋ねた。彼にはきっとわからない。不完全なわたしの気持ちなど。心の片隅で密かにそう嘆く一方でわたしは彼がそうあるように望んでもいた。憧れれば憧れるほどその気持ちだけは尊いものになるような気がして。眩しい何かが自分を染め替えてしまうような。そんな心地。

 「この場所は暗いね。月も見えない」

 「月が好きなの?」

 「好き」という言葉にまた心が揺れる。陶酔的で曖昧な気分が一気に拭い去られていくような不快感。ああ。嫌だ。

 「違う…!」

 わたしはあの人みたいにはならない。わたしは誰のことも嫌いにならない好きにならない。……愛さない。

気持ち悪い!気持ち悪い!大嫌いだ。

 「…そう。ごめんね。もうきかない」

青の声が遠くに聞こえた。

喉の奥に石を呑んでしまったみたいに呼吸が荒くなる。青は優しい。だから踏み込んでこない。彼には、彼だけにはわたしをわかって欲しいと思っているはずなのに。誰よりも彼には理解してほしくない。

 最近よく思う。青に出会った頃に戻りたいと。あの頃は彼の優しさに溺れているだけで幸せだった。わたしがわたしでさえなければ、こんな不安も覚えずに済んだのに。

今日、分かったことがある。

わたしがこんなにも不安になるのは、青の優しさに理由がないから。いつも

「青はなぜ、わたしに優しくしてくれるの」

「青とわたしはいつ始めて出会ったの」

 そんな疑問が口をついて出そうになる。

 けれど、問うことはできない。

 出会った時からわかっていた。

 問う時は、終わる時だと。

 もしかしたら、青自身でさえ知らない問いの答えを知るとき、この心地よさも共に去るだろう。そんなことには耐えられない。だから。

 わたしはこの先、どうすべきだろう。どうしたいのだろう。

 この場所に来れば幸せになれるはずだったのに。もう、満たされない。青はもうわたしを救えない。青と出会わなければこんな孤独を知ることもなかっただろうに。

 耳鳴りがする。水泡が弾けて囁いている。お前と青は別物だと。わかっている。わかっていた。この痛みは夜に沈むにつれて日に日に深化するばかりだ。それなのにきっと、わたしは明日もここを訪れてしまうだろう。青に救いを求めて。彼はきっとわたしを欲しがってはくれないのに。

 


ああ。どうすればいい。

 

※※※

 

 

小説・海のなか(15)へと続く。

 

次話はこちら。

 

 

kuromimi.hatenablog.com

 

 

 

ただ自分らしくありたいだけなのに。

私はキラキラしたものが好きだ。

 

昔からそうだった。

キラキラしたアクセサリーを見ていると日々の悩みがどうでもよくなる。幸せになれるのだ。コスメもメイクも好きだし、おしゃれすること全般が大好きだ。愛していると言ってもいい。

 

こういう私の嗜好を他人が知ると、大体

女子だねぇ。

とか

わたしにはそんなふうにできないな

 

なんて言われる。そしてそのたび居心地の悪さを感じるのだ。

 

わたしの大好きなことたちがただ、

 

「世間的な女の子像にあてはまる」

 

というだけの理由で評価の対象に登るというのがなんとも勘に触る。

わたしは好きだからしているだけなのに。

わたしは自分のためにしているのに。

 

わたしは決して女の子らしい中身ではない。

髪の毛だってベリーショートだし、粗雑で気が強い。

それなのに大好きなものたちは

勝手にやってきた人々に勝手に批評されてしまう。

 

かつてわたしはわたしのためだけにメイクしていたので、それはもうすごい顔になっていた。

(らしい)

 

ある時、見かねた母がこんなふうに言った。

 

「あんたの顔はキャンバスじゃないんよ」

 

は?何言ってんだこいつ。ほっとけ。

 

数年前にそんなふうに思ったわたしもいつしか仕事をはじめ、薄くメイクする様になった。

 

外からの視線に屈したのである。

 

あれから随分と生きやすくなった。もうだれもわたしの見た目に何か言うことはない。

 

けれどどこか寂しさを感じる。

 

わたしはわたしらしさを売り渡してしまったのではないかと。

 

わたしにとって譲れないものが多すぎる。

 

それはただ、我儘だと片付けていいことなんだろうか。

 

わたしにはまだ 答えが出せない。

 

詩・地獄を生きる

 

地獄を生きようと思う

 


それを選ぶ権利がある

 


自由を生きようと思う

 


自由という地獄を

 

 

 

 


この地獄をわたしだけはどこまでも知ろう

 


まだこの先があると分かっている

 


ここには底がない

 


私の欲望の深さと同じに

 

 

 

 


味わったことのない幸と不幸

 


それだけを飽くことなく

 


食べ続ける

 

 

 

地獄を骨の髄まで味わって

 


それだけのために生きる

 

 

 

虚で生々しい味の

 


私という 底のない地獄を

 

詩・さみしいひとびと

 

ひとはみんなさみしい

 

 

たとえ

 

さみしいと 気がつかなくても

だって私たち ひとりひとり違うんだもの

 

さみしいを 愛する人もいる。

さみしいを 味わうひともいる。

 

さみしいってだめかしら。

 

わたしは さみしいが すきなのに

 

 

 

ひとはみんな 恋しい

誰もが誰かを求めていて

 

でも誰を求めているのかは分からなくて

好きだと思うひとに幻をみて

 

満たされた瞬間は一瞬

お腹はいつも すいているのに

 

欲しいものがあるのかも わからない。

本当はね。

 

わたしたち みんな虚像

わたしたち みんな 変わってしまう

 

当たり前だけど

 

何もかも台無しになって

何もかも消えてしまっても

 

変わった道筋は 残る

それが生きると言うこと。

 

 

誰もが忘れない わたしになる

そうして明日を迎える。